ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
キャリア教育の視点と方法を探る
齋藤諦淳
武蔵野大学長
齋藤諦淳
Saito Taijun
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大学現場の事例(2) 武蔵野大学
人格教育とキャリア教育の融合で
組織的にキャリア形成を支援
 東京都西東京市にある武蔵野大は、約4500名の学部生が在籍する中堅私立大だ。武蔵野女子大から大学名を改め、04年度に男女共学に移行。同時に現在の文学部、現代社会学部、人間関係学部の3学部に加え、薬学部の設置も予定している。
 同大では、00年より「キャリア開発プロジェクト」を展開。体系的な取り組み内容が評価され、03年度には、GP(注※)に採択された。キャリア教育を組織的に進めるためにどのような体制整備が必要か、同大の事例から紹介していきたい。
※GP(Good Practice)=「特色ある大学教育支援プログラム」。高等教育の活性化を図るため、03年度、文部科学省により設置。武蔵野大学は「主として教育課程の工夫改善に関する」テーマで採択された。
 プロジェクトの導入に当たり、同大が最も留意した点は、開学以来培ってきた教養教育の伝統を残しつつ、いかにキャリア開発のプログラムを統合させるかという点だった。齋藤諦淳学長は次のように述べる。
 「大学全入時代を控えた今日、エリートのための教育だけではなく、社会人としての実戦力を養う教育も大学の社会的使命になっています。ただ、キャリア開発にばかり目を奪われ、本来大学が担ってきた教養主義や人格教育を忘れては、大学の存在意義はなくなります。従来の教養教育により人格を高め、キャリア教育により人材を育成する。人格と人材の両方を育成する点が、リベラルアーツ主体の大学ともキャリア開発主体の専修学校とも違う本学のキャリア教育の特色なのです」


社会の実相に触れた後に自己分析・自己理解を図る
 同プロジェクトの概要は図7の通りだ。中でも重点を置いているのが、「キャリア開発科目群」で、正規の教養教育科目として1年次から履修を義務付けている(図8)。
図7
図8
 1年次の「キャリア開発基礎1」は文章読解力・表現力を養うリメディアル的要素の強い科目。純粋なキャリア開発科目は、業界の第一線で活躍する職業人が仕事の具体的な内容や産業社会の現状を紹介する「女性の生き方と職業」から始まる。同科目で社会の実相に迫った後、「キャリアデザイン」で自己分析・自己理解を深め、キャリア設計を考える。
 「一般的にキャリア教育を行う場合、まず自己分析をして、それに応じて進みたい職業を選び、職業研究をするという段階を追うことが多いですね。しかし、自己分析で自分を理解するところからスタートすると、学生には実感がわきにくいんです。それよりもまず、多様な価値観にどっぷりと浸からせる。『卒業後、自分はどうやって生きていくか』というキャリア形成に一番大切な部分を考えさせるところから始める方が、効果があると思いました」(齋藤学長)
 結婚したら家庭に入るのも選択の一つ、キャリアは自分の可能性を試す場である――。こうした様々な話の中から、学生は自分らしい生き方とは何かを考えるようになる。その後に、自己分析・自己理解を行い、卒業後のキャリア設計に目を向けても遅くはないというわけだ。
 
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