ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
リスニングテスト導入の意図を読み解く
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大学入試全体への影響について
――このようなテストが実施されることによって、大学が行う英語の個別試験にも影響が出てくると思われます。その点についてはどのようにお考えですか。
河野 今までも、多くの国公立大が、個別試験で英語のリスニングテストを課してきました。しかし、センター試験にリスニングが導入されれば、「高校生として基礎的なコミュニケーション能力が身に付いているかどうか」という部分については、センター試験でも十分計測できるようになります。個別試験では、各大学が求める力を見る独自色がより強まっていくのではないでしょうか。
――今までより難化するということでしょうか。
河野 難しくなる、というよりは、個別試験でリスニングテストを行う意味が、大学ごとにより明確になってくると考えた方がよいと思います。例えば、外交官や国際公務員の養成を図るような大学では、より高度なコミュニケーション能力やリスニング能力を測るテストが行われるようになるでしょうし、国文学がメインになっているような大学では、個別試験でリスニングテストを課すこと自体を取りやめるかも知れません。各大学が「英語によるコミュニケーション能力」をどのように考えるかによって、内容は随分変わってくると思います。
――各大学が英語教育をどう位置付けるのかが、一層明確に問われるようになるわけですね。
河野 大学の自治との関係もあるので、文部科学省としては「大学の英語教育はかくあるべし」と、一律に教育内容を規定するようなことは行っていません。しかし、実践的なコミュニケーション能力が求められる現在、大教室でテキストの輪読を行うような英語の授業では時代の要請に応えられないのも事実です。既に先進的な大学では、10名以下の少人数クラスを編成するなど、英語教育の在り方を根本から見直す動きもあるようです。センター試験へのリスニングテストの導入は、そうした流れを加速させると思います。


高校の英語教育に求められるものは何か
――英語リスニングテストの導入が、大学の英語教育を変えていくことにもつながるというお話でしたが、このことは「高大接続」を考える上で、高校現場にとっても大きな関心事です。リスニングテスト導入を契機として、高校の英語の授業をどのように見直してほしいとお考えですか。
河野 リスニングテストはあくまでも新学習指導要領に則って作成されますから、これによって、授業の在り方や教える内容を根本から見直す必要は、原則的にはないはずです。むしろ、高校の先生方に意識していただきたいのは、リスニングテストが導入された意図を、きちんと踏まえた授業を行ってほしいということです。先程申し上げたように、現在の社会で活躍するためには英語は必須のツールです。リスニングテストが導入されたからといって、テスト対策のための授業を行っていては、「受験英語」の指導と何ら変わりません。日々の授業の中で、きちんとコミュニケーション能力が身に付くような工夫をしていただくことが、最も望ましいのではないかと思います。
――その意味では、英語が必要とされている社会情勢や企業の事情を、きちんと生徒に伝えていくことが重要ですね。
河野 そうですね。今後の英語教育においては、生徒に対し、正しい学習モチベーションの持ち方を伝えることも重要になると思います。「テストで高得点を上げるために、コミュニケーション能力を磨きなさい」といった発想では生徒には響かないでしょう。「なぜ英語でのコミュニケーションが求められているのか」「英語でコミュニケーションが取れると、どれだけ世界が広がるのか」といったことを、きちんと生徒に伝えていかなければなりませんよね。
 実際、SELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)でコミュニカティブな指導方法や動機付けの方法を開発していただいていますが、そのねらいの一つはこの点にあるのです。生徒自身が英語の運用能力の高まりに意味を見いだし、喜びを感じる。それと共にテストの点も伸び、英語も使えるようになる。日本全国の学校で、こうした指導法や動機付けの方法が研究され共有されることが、今後進められることを願っています。
――リスニングテストの導入という目先の変化に捕らわれずに、英語教育の本来あるべき姿をきちんと見据えることが大切だというご指摘ですね。本日はありがとうございました。
 
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