ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
プリント学習や授業改善で学習内容の徹底理解を図る
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 今治西高校は、毎年200名以上の国公立大合格者を出す進学校。模試での数学の成績は県内トップレベルで、理系に強い学校として知られている。学区内の中学生や保護者からも「将来、理工系や医歯薬系の大学に進みたいのなら西高」という評価を得ている。
 だが、9年前に数学担当の大内洋一郎先生が赴任した当時、同校の理数科目の指導体制は必ずしも確立されていなかった。模試での数学の成績は県内で4、5番手。同僚の教師たちからも「うちの実力では、県内のトップ校には届きません」と言われたという。
 しかし大内先生は生徒と接するうちに、「この子たちは、決して他の学区のトップ校と比べて学力が低いわけではない」と感じるようになっていった。その頃の数学科は昔ながらの指導スタイルで、言わば放任主義。そのため自学力のある上位層の生徒は育つが、下位層の生徒は授業についていけなくなる。そんな状態を見た大内先生は、「進学校なので放っておいても勉強するという発想は捨てるべき。もう少し生徒に手を掛ければ、能力はあるからきっと伸びるはず」と考えたのだ。
 そこで大内先生が数学科の教師に呼び掛けて実施したのが、「整理プリント」と呼ばれる週末課題だ。B4判のプリントには学習内容の定着を図るため、数学科で厳選した良問が集められている。数学科にはこれが数IIICまで全単元分揃っており、各クラスの授業進度、生徒の理解度に応じて配付されるのだ。生徒はこのプリントを2週間に1回のペースでこなしていくことになる。生徒にプリントを配付する際には、解答解説も一緒に付けられており、生徒は週末に課題に取り組み、自己採点をした上で月曜日に提出する。課題提出は評価にも加えているため、ほとんどの生徒は真面目に取り組んでくる。
 定期考査前には、それまで作成した何枚かの整理プリントを印刷して、教室前のレターケースに入れておき、生徒たちが自由に取っていけるようにした。良問が集められているプリントを何度も解くことで、確実に基礎力が身に付く。基礎が分かって問題を解くことが楽しくなれば、生徒は自ら進んで学習へと向かうようになるという。
 もちろん授業内容を生徒に復習させるプリントを作っている高校は少なくない。それでも同校の整理プリントが効果を上げているのは、良問を厳選している点と、プリントと合わせて解答解説を配っている点が大きいという。数学担当の渡辺哲朗先生はこう話す。
 「前任校でも生徒にプリント課題を課していたのですが、提出率は5割程度。解答を後で渡すようにしていたため、課題を難しいと感じた生徒が途中で問題を解くことを諦めていたんですね。ところが本校の場合は提出率9割以上。中間層をターゲットにして、単元ごとのポイントを押さえた良問だけをプリントに集めています。その問題に、数学が苦手な生徒でも、解答解説を読みながらではありますが、最後まで取り組みます。これが生徒の力を引き上げているのだと思います」
 大内先生も、次のように言葉を継ぐ。
 「昔の生徒は、難問に当たっても最後までやり抜く粘り強さを持っていました。でも今の生徒はすぐに投げ出してしまうんですね。そこであらかじめ解答解説を手渡しておけば、つまずいたときに解説を読むことで次に進むことができる。つまり、今の生徒の気質に合ったやり方なんですよ」
 同校の数学指導のもう一つの特徴が、「県内の進学校でも一番」(大内先生)という授業進度の遅さだ。ほとんどの進学校では教科書を早めに終わらせ、高3の多くの時間を問題演習に充てているのに対して、同校で数IIICが終了するのは高3の2学期半ばだ。
 「授業の進度を遅くすることで、授業についてこられない生徒を減らします。その分、各単元で身に付けるべき内容をじっくりと、しかもより高いレベルで習得させることに力を注いでいるのです。例えば、理系クラスでは高2の2学期が終わる時点で、数II・Bについては模試の応用問題が完答できるレベルにまで仕上げます。これにより高3の後半に教科書が終わったときには、どの生徒も国公立大個別試験レベルの応用問題に取り組める記述力が身に付いているのです」(大内先生)
 
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