ベネッセ教育総合研究所
VIEW'S REPORT 日本・韓国・中国の高校生の英語力
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自己肯定度が低い日本の高校生
 自我と社会性のクラスタ分析をすると、合計11のクラスタを抽出することができた。
 GTEC for STUDENTSによる学力到達度を3段階に区分し、それぞれの段階と各クラスタとの関係性を示したのが、図9のレーダーチャートである。
図9
(注)面積が大きいほど肯定率が高い。
 このデータから読み取れるのは、大きく次の5点である。
 (1)レーダーチャートの面積に注目すると、自我、社会性共に日本の面積が最も小さく、高校生の自己肯定度が低い。特に自我の肯定度で大きな格差が発生し、「自分らしさ」がつかめていない生徒が多いことを示している。
 (2)自我、社会性共にGTEC for STUDENTSによる学力到達度の高い生徒の自己肯定度は高く、下位になるに従って低下している点は、3か国に共通している。このことから見てGTEC for STUDENTSの学力による弁別性はアイデンティティの確立度について検証もでき、妥当性の高いテストであると評価できる。
 (3)社会性の面積が3か国共に大きく、他者や社会に働きかけることの肯定度が高い。特に中国の高校生はすべての学力層でこの側面に対する自己評価が高く、自己肯定的な傾向が強いことが分かる。
 (4)3か国に共通している点として、高校生が自分自身について優れていると評価しているのは、自我の5クラスタの中のア、イ(自分自身を信じ達成感や効力感を持ちやすい傾向)である。また、社会性のクラスタではア、イ、ウ(自分の役割を果たし居心地の良い対人関係を保持しようとする傾向)である。
 これに対し、自我のクラスタのウ、エ、オ(自分らしさに基づいて物事に挑戦しようとする傾向)と社会性のクラスタのエ、オ、カ(自己規制を前提に他者や社会に働き掛けようとする傾向)の自己評価レベルは低く、青年期に共通する教育課題だといえよう。
 (5)GTEC for STUDENTSによる学力到達度の弁別性の強いクラスタを抽出すると、自我ではイ(自己肯定)、エ(自立性)、オ(目標設定)であることが確認できた。社会性では、中国は学力による弁別性が小さく肯定度があまり変わらないが、日本・韓国ではイ(積極性)、オ(対処性)、カ(役割遂行)の3つを抽出でき、両国の肯定度はほぼ同一水準であることが確認できた。

 社会性も含めて学力を弁別するクラスタは、まさに「学びに向かう力」としての学力要件であると共に、社会生活を送る上で欠かせない中核的な基礎能力(リテラシー)そのものであると言えよう。
 今回のアイデンティティの確立に関わるクラスタ分析から、日本の学校教育の課題として浮上したのは次の点である。すなわち、自我(その人らしさ)を確立させるために、学校としてどんなプログラムを準備するかである。
 (1)「今(これまでの)の自分」――今「やっていること」をチェックさせ、イメージからの選択でよいから「やりたいこと(なりたい自分)」を探す。 
 (2)「何ができるか」という可能性から「なりたい自分」を描いてみる。
 (3)社会の中での自分の役割期待にどう応えるのか(なるべき自分)を描く進路学習を定着させることである。
 この3つのステップがクリアできれば、自己肯定・目標設定と自立性などの肯定度が高まり、自律的な「学び」に向かう生徒が育つのである。



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