以上のような作業を終えたら、シラバスのフォームの確定に入る。この段階では大人数で議論するよりは、少数の担当教師が「叩き台」となる原案を作成し、それを再度、大人数で検討し直す方が議論をまとめやすいだろう。シラバスの原案は、3年間に渡りその運用を担当する部署で作成するのが望ましい。よって、現実的には学年主任や学年の進路担当が作成するケースが多いと思われる。この段階では最低限以下のような項目を盛り込むとよい。
(1)長期的な支援テーマ
まず重要なのは、保護者が生徒と家庭で接するに当たって目標となるテーマを、ある程度示すことである。3か年を通じた大目標と合わせて、学年、学期に応じた支援テーマを定めるとよい。1年次であれば、
・高校生活に慣れようとする子どもの理解者になる(1学期)
・文理選択に向けて親子で話し合う(2学期)
・2年次の学部・学科選択に備えた情報収集に努める(3学期)
といった支援テーマが考えられる。「保護者に求めること」というと、どうしても生活上の注意点といった、細かな部分に目が行きがちである。しかし、何よりも重要なことは、子どもの成長のサポートに向けた長期的なビジョンとの関わりの中で、保護者が自身の役割をシラバスを通して自覚できるようになることである。学校の指導プランと見比べながら、まずは時期ごとの大きな支援テーマを保護者に示したい。
(2)具体的な行動指針
学年、学期ごとの支援テーマの達成に向け、具体的にどのような活動が求められるのかを明示したい。ここで注意しなければならないのは、教師が指導上の常識と思っていることの多くは、必ずしも保護者にとっては常識ではないことだ。保護者にも分かりやすい情報提供を行うためには、できるだけ一般的で、平易な表現を用いて、目標達成に向けたポイントを示すことが必要だろう。例えば「高校生活に慣れようとする子どもの理解者になる」という支援テーマがあったならば、「最初は環境変化に戸惑う子どもが多いので、話をする機会をできるだけ多く作る」「母集団が変わるので、成績が大きく変動することもあるが、あまり気にしないようにする」といった言葉に置き換えることが必要である。
(3)学校の指導プランとのつながり
保護者に対する行動指針を示すと同時に、それが学校の指導プランとどのような関係にあるのかを分かりやすく示すことも大切だろう。「なぜこの時期に家族で職業について話をしておいてほしいのか」「1年1学期に、成績について細かく言わないように配慮してほしい理由は何か」といった行動指針の背景までシラバスに盛り込むことで、学校の指導プランへの理解が深まり、発信したことが更に生きてくる。また、主な学校行事や、学期ごとの学校側の生徒育成目標などを示しておけば、保護者シラバスの掲載内容とのつながりをより深く理解してもらうことができるだろう。
一方、保護者のサポートと学校の指導プランの関係であるが、理想的には「家庭での意識付け→学校の指導」という流れが望ましい。例えば、文理選択であれば「家族で職業の話をする」「オープンキャンパスに親子で参加する」といった保護者のサポートが得られた上で、文理選択に臨むことができれば、親子共に納得度の高い進路決定ができるだろう。学校の指導とうまくリンクするように、家庭で「仕掛ける」サポートができないか、考えてみてほしい。
以上のような項目を押さえていれば、保護者シラバスとして機能する要件は備えていると言えるだろう。最初からあまりに精緻なものを作ろうとしてもなかなか容易ではないので、まずはこれら最低限の要素を踏まえたものを作成し、実際に運用する中で改良を加えていくのが現実的であろう。
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