ベネッセ教育総合研究所
指導変革の軌跡 埼玉県・私立淑徳与野高校「生徒の”個”と向き合う指導」
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自分を見つけるための「HR(ホームルーム)ノート」
 私学の指導改善というと、土日を活用した指導時間の確保や、教師の加配、コース設定の細分化といった物理的な対応を連想する読者も多いかも知れない。しかし、同校の教師がまず確認したのは、「生徒の”個“と向き合う指導」(長尾先生)を充実させることだったという。このような問題意識に至った背景を、進路指導部長の味沢俊治先生は次のように語る。
 「生徒が学校の方を向いていない状態でいくら物理的な対応を考えても効果は薄いと考えました。それよりはむしろ、教師と生徒の人間的な関係づくりを重視して、学校の指導をきちんと受け止められるようにすることが大切だと考えたのです」
 このコンセプトを受けて、真っ先に着手されたのが、10年来続いていた「HR(ホームルーム)ノート」(図1)をリニューアルし、生徒指導の核とすることであった。
図1
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元々、同校では日々の学習記録を記入・提出させる、いわゆる「学習履歴」ノートはあったが、02年度からは、講演会や進路学習の成果についても記入できるスペースを多数設け、年間で最大数十回もの『書く機会』を確保したのである。新ノートのコンセプトは、「高校生活で見聞きし、考えたことを、言語化することによって、自分を知り将来を見通す力を付ける」こと。3学年進路指導主任の矢吹誠先生はその理由を次のように説明する。
 「『書くこと』は、生徒が自己表現力を伸ばしたり、自らの考えを整理する力を伸ばすのにも有効ですが、それと同時に大切なのは、生徒が書いた文章を教師がこまめにチェックすることで、生徒と教師の関係性を強化できることです。LHRなどのちょっとしたきっかけづくりを大切にしながら、生徒とのやり取りを密に行うことが重要だと考えました」
 「HRノート」のフォームは、生徒の作業負担をできるだけ軽減できるように留意されている。実際の誌面を図1に示したが、例えば、講話の内容を要約させる場合でも、内容を記述させる欄だけでなく、「最重要ポイント」欄などを設け、話の要点を整理できるようになっている。これなら、少なくとも何も書くことのできない生徒はいないというわけだ。
 「中学時代に書く経験が乏しかった生徒の中には、『楽しかった』『つまらなかった』といった感想しか書けないケースもありました。しかし、そんな生徒がいたとしても、担任が何度もコメントを入れては返す中で、徐々に文章を書く力は伸びていきます。あまり書けない生徒については一つの課題について何度も担任がやり取りを繰り返すことも珍しくありませんし、面談前の1週間などの重要な期間には、全教員で『HRノート』をチェックし、生徒一人ひとりの状況を把握します。こうした頻繁なやり取りが、教師の熱意を感じてもらうことにつながっているのではないかと思います」(矢吹先生)


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