ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 大学競争時代の幕開け~グッド・プラクティス
松石正克
金沢工業大教授
松石正克
1941年茨城県生まれ。大阪大大学院工学研究科博士課程修了。日立造船㈱電子情報システム研究室長、日立造船情報システム(株)技師長、アイオワ大学客員研究員等を経て現職。
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Part2 事例2
金沢工業大 工学設計教育で自学自習力を養う
●取り組み名称…工学設計教育とその課外活動環境 ●取り組み単位…大学全体 ●採択年度…03年度


チーム作業によりアイデアを形にする
 特色GPに選定された取り組みに、学生の自学自習力を高めるプログラムが多いことは先述したが、工学設計教育を通じた「人間力教育」を目指す金沢工業大の取り組みは、その最たるものと言えそうだ。
 同大の取り組みは、「工学設計I~III」という全学生必須の科目を軸に展開される。学生自らが問題を発見・解決するプロセスを通じ、自立的に学ぶ力を身に付けていく教育プログラムだ。言わば「教員が教える教育」から「学生が自ら学ぶ教育」を目指す同大の教育改革の中心をなす取り組みと言える。同大の松石正克教授は次のように述べる。
 「エンジニアはチームで仕事をする場合がほとんどですから、より良い仕事をするには、単に技術的な知識が頭に入っているだけでは不十分です。世の中のニーズを汲み取り課題を解決していく力、チーム内におけるリーダーシップや協調性、自分の考えを説明できる表現力や相手の考えを理解する力が必要になります。こうした能力は、ただ教員が学生に指示を出して取り組ませる従来の教育では身に付きません。工学設計科目は、そういった実社会で必要とされる力を育むことを目的としているのです」
 工学設計科目の流れは、
(1)課題の発見、
(2)課題(目標)の明確化、
(3)複数の解決案を創出、
(4)解決案の評価と選定、
(5)解決案の具体化。
1年次で工学設計I、2年次で工学設計II、4年次に工学設計III(卒業研究)を履修するが(図6)、I~III共に基本的な流れは同じである。以下、02年度2年次に行われた実際の学生の研究を基に流れを見てみたい。
図6
 まず、1クラス35人の学生を5名ずつ7つのチームに分け、教員が各チーム共通のメインテーマを提示。このテーマに対して各チームが様々な案を出す。この時のメインテーマは「快適に遊べる環境を設計しよう」で、それに対してあるチームは「安全で楽しい雲梯(うんてい)の設計」という案を出した。当時、小学生が公園の雲梯の上から足を踏み外し、雲梯にランドセルが引っかかって窒息死するという事件があったことから、安全で楽しい遊具ができないかと考えたのである。公園内の各遊具設備の事故率を調べたところ、果たして雲梯がトップ。そこで「上に登れないようにすれば事故率は下がるのではないか」という仮説を立て、安全な雲梯の設計に取り掛かった。
 まず「事故率0.12%」「最大負荷容量2250N(※)以上」「耐久年数15年」といった目標条件を定めた設計仕様を作成、図7のような回転式の雲梯を案出した。更に、学内にある「夢考房」を使って雲梯の模型を製作、実際の動作を観察したところ、回転が速くなりすぎることが分かったため、回転軸にスピードを抑える装置を取り付けるなど改良が加えられた--。
※ N=ニュートン(重力の単位)。
図7
 以上が学生自身による「課題の発見と解決」のプロセスの一例である。この例では最終的に模型の形で成果物ができたが、必ずしも具体的な「モノ」を作るとは限らない。学生が考えた案が有効であるかどうかを説明できるものであれば、設計図やコンピュータのプログラムであっても構わないのである。更にこの成果は、スライドを使って口頭発表されると共に、詳細な図と解説を付けたポスターとして印刷され、学内・学外の参観者を前にポスターを使ったプレゼンテーションが行われる。
 「学生にとっては、課題の解決活動の前段階に作る『設計仕様』が具体的な数値目標になります。数値目標というゴールに向かってチームで活動し、それを模型やプログラムなど具体的な成果物として発表することができます。同時に自ら課題の解決作業を進める過程で、教室で習う理論が実際にどのように役立つかを実感できます。こうしたことによって学生の目的意識が高まり、自発的な学習に向かうことができるようになるのです」(松石教授)


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