ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 大学入試改革の現状と展望
PAGE 11/11 前ページ


My Opinion 今大学に求められること
これからの高等教育と中等教育の接続状態を改善するためには、改革の流れを俯瞰しつつ、大学や教育行政への視点を持つ必要があるだろう。私見ながら、三つの観点でまとめてみたい。
○求められる力を重視した教育課程の改訂を
 一点目は、大学の募集単位を再考すべきということだ。できるだけ多くの大学が、募集単位を大きいカテゴリーにまとめ直すことが必要だ。今後の先端学問の高度化と領域のクロスオーバー化や高度専門職業人養成といったことを考えると、高校の進路選択であまり細かな学問領域や職種を絞り込むのは難しいためである。
 このことは、大学が教養大学を志向する場合も同様だ。大学進学後、興味や資質・能力・適性を考えながら途中段階や大学院進学時に進路変更することも可能にすることが重要で、そのためにも、学部段階のリベラルアーツ教育の工夫や、メディカルスクールなども含めた必要なすべての領域の専門職大学院の整備が必要になろう。
 二点目は、入試と高校での指導内容の足並みを揃えていくべきということだ。次の教育課程改訂時には、今大学・社会で求められている力やテーマを重視して、教科・科目の再編や指導内容の精選・見直しが必要である。そうした力を育成できる内容を残さなければ、今後益々入試のテーマと教科書の内容が乖離してしまう。
 また、言語のツールである「国語」と「数学」は削減するのではなく、広義の読解力・論述力養成を取り入れ、数学と「情報C」をうまく組み合わせるなど、内容の工夫で充実させるべきである。その上で本質的に理解した基礎・基本の知識を様々なテーマに活用する力を育て、生徒の資質や能力に応じた興味・関心も引き出すことが本格的に検討されれば、多少高校側の苦悩も改善されるだろう。高校側も、公民・理科の一部・家庭科などから本当に重要なテーマを精選し、「総合的な学習の時間」を改良してきちんと組み立てるという方法もあるのではないだろうか。
 
○入試では複数回受験や日程の柔軟化を
 三点目は、大学入試制度に関することである。ここまでに述べてきたように、入試問題の要求学力は国公私の大学セグメントごとにかなり多様化していくだろう。そのため、まず大学進学のための「基礎学力・基礎能力を測定する試験」の導入が必要になるのではないだろうか。大学入試センター試験にそれらを測定する「総合問題」を加え、大学入学を目指す多くの受験生に義務付ければ、大学進学者に必要な基礎学力・基礎能力は何かを示すこともできると共に、最低限の学力は担保される。
 それに加えて、現在の大学入試センター試験の教科・科目を以前の共通一次試験程度まで絞る。更に各大学は、その範囲内で大学教育に必要な教科・科目を選択する。そうすれば、大学入試センターの試験作成の負担を軽減する効果もあり、受験生に年に2~3回の受験機会を与えることもできるのではないだろうか。その上で個別試験は大学が時期を遅らせて実施できれば、高校側の負担も少なくて済むだろう。
 また、仮に課題解決力や論述力を問う「採点の手間のかかる丁寧な選抜」を3月の半ば以降に行ったために、4月中旬以降の入学になったとしても、夏休みの短縮などで時間のやりくりができる可能性もある。今後AO入試や帰国子女・留学生の入試の展開を考えると、一部に9月入学の枠を設けることも考えられるため、入学試験の日程自体も固定観念に捕らわれずに十分検討すべきである。
 更に個別学力試験の内容も、再び教科別試験だけの深い知識事項を要求する難しい問題に戻したり、一般入試で特定の学科の専門領域にまで入り込む出題をしたりすることは好ましくない。「基礎・基本の本質的な理解」を通して、この10年間では、知識活用力や広義の読解力・論述力・課題解決力・資質など多様な力を測定するようになってきた。今後、AO入試や推薦入試だけでなく一般入試においても、更に進化させてほしいと思う。

PAGE 11/11 前ページ
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse