特集 真の「文武両道」を目指して
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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問いかけることで両立の大切さに気付かせる

――上田さんは文武両道を重視し、慶應義塾大の監督時代にも学生に「学業とラグビーの両立」を強く説いておられました。文武両道の大切さはどこにあるとお考えですか。

  僕が監督のときには、次の三つのことを目標にしていました。4年生が希望通り就職できること、部員が留年しないこと、ラグビーで良い成績を残すこと。大学の体育会というのは、試合で結果を残すことを重視するあまり、学業を疎かにする場合も少なくありません。慶應ラグビー部でも、かつては「体育会の部員は選択科目の授業に出てはいけない」といった暗黙のルールがありました。しかし、彼らはラグビー選手である以前に学生ですから、本業はあくまで学業です。学生時代にできるだけ様々な分野に関心を持って学業に励み、幅広い視野を養って社会に出ていってほしいと思っています。僕自身、大学時代にもっと様々な分野の勉強をしておけばよかったと、今になって後悔することも少なくありませんからね。
  もっとも、そのためには練習時間と重ならないよう履修を工夫したり、練習後や遠征先への移動中に勉強するなど、自分で時間のやりくりをする必要があります。ただ、限られた時間の中で、自分の時間をつくり出すスキルを身に付けることができるのも、部活動の良さだと思いますね。慶應でも、ラグビーをやりながら司法試験に合格した学生や、医師になった者もいましたよ。


――とは言え、部活動と学業の両立は容易ではありません。辞めたいと言う部員に対してはどのように接していらっしゃいますか。

  僕の教え子の中にも、入部後すぐに辞めたいと言う学生はいます。多くは「学業に専念したい」「将来に備えて資格を取りたい」などの理由ですが、そういう学生に対しては、頭ごなしに否定するのではなく、問いかけることにしています。「ラグビーは嫌いか? 好きなら何で辞めたいんだ? 時間がないのか? 今まで何が楽しかった? お前もいろいろ悩んできたんだな。でも、辞めて後悔しないか?」という具合です。辞めたいと言ってくる学生は、「学業とラグビーのどちらを選ぶか」ではなく、実は「どうやったら両立できるのか」ということで悩んでいる場合も多い。ですから、問いかけることで、学生の考えも整理されてきて、冷静な判断ができるようになるわけです。ただ、それでも辞めたいというのであれば「じゃあ、夢の実現のために頑張ってこい」と気持ちよく送り出すことにしていますよ。最終的な判断は学生に任せています。


――高校では大学受験への不安から、部活動と学業の両立に悩む生徒が少なくないようです。高校生に対して、教師はどのように接するべきでしょうか。

  高校生についても、もっと問いかけて、自分で考えさせるべきだと思いますね。僕もラグビーの指導を通して高校生と接することが多いので分かるのですが、高校生って結構、大人なんですよね。それなのに一部の指導者は、高校生を大人として扱わず、一方的に「お前ダメじゃないか」と押さえつける場合もあるようです。問いかけることで、本当に自分にとって大切なことは何かを考え、自分自身で結論を出せた生徒こそ、文武両道を達成してくれるのではないかと思います。

――やはり、最後は本人の意欲、意志というところにかかってくるんですね。

  時間が理由で部活動を続けられませんと、すぐに結論を出してしまう子は、将来、ちょっとした困難に出会うと、「これダメだな」と、すぐに逃げてしまうことにもなりかねません。ですから、高校生の皆さんには、ダメだなと思ってもすぐに辞めてしまうのではなく、とにかく続けて、両立することにチャレンジしてほしいですね。これからの時代を勝ち抜いていくためには、勇気とチャレンジ精神が必要です。何事も恐れずにチャレンジする気持ちを忘れないでほしいですね。
  また、先生方には、日本の財産を育てているのだという気持ちを持っていただければと思います。指導者は、環境は変えられません。与えられた環境の中でいかに創意工夫できるかというところに、指導者のセンスが問われるのだと思います。部活だけ、勉強だけということではなく、生徒にとって何が大切かを考えた指導を心掛けてほしいですね。


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