飯塚 お話をお聞きしていると、次の国大協の指針に向けては、入試方式や競争率の緩和…といった方法論ではなく、入試選抜の機能をどのように定義するのか? という部分にまで踏み込んだ議論が行われるように感じられます。
荒井 大学全入時代が到来した今こそ、入試の意味をきちんと考えなければなりません。大学進学者がまだ少なかった数十年前なら、各大学は、単に相対的な学力の優劣を競う入試をしていれば、優秀な学生を確保できました。しかし、大学進学率が大幅に上昇した現在、同様の手法では大学が求める学力水準に達した生徒を確保できるとは限りません。明確な学力要件を提示し、それをクリアできた学生を受け入れる入試制度に変えて行かねばなりませんよね。
飯塚 各大学のアドミッションポリシーを、抽象的な理念ではなく、求める学力要件としてきちんと示すことが求められるわけですね。
荒井 各大学のアドミッションポリシーに加え、今後は、全大学が共通に求める学力要件を、公的に定義することが必要だと思います。専門用語で「アドミッション・スタンダード」というのですが、こうした考え方が普及しているアメリカでは、高校の先生方と大学側の代表者が話し合いを重ね、具体的な単元内容にまで踏み込んで、アドミッション・スタンダードが決められています。こうした動きが更に進めば、個別学力試験の問題を共通テスト化する動きにもつながってこようかと思います。
飯塚 日本の実情に合わせて考えると、高校の「学習指導要領」をアドミッション・スタンダードを示すものに変えていくべきだと?
荒井 いいえ。学習指導要領は、すべての高校生にとっての到達度指標ですから、就職を目指す学生や、専門学校への進学を目指す学生も考慮した基準とすべきでしょう。アドミッション・スタンダードは、あくまでも大学進学者に向けた基準なので、学習指導要領とは別のものにすべきです。
飯塚 二つの基準が出ることに、疑問を持たれる高校の先生は多いと思うのですが…。
荒井 ご指摘の通りです。今、高校現場で問題となっているのは、授業の目標を学習指導要領に合わせるべきか、各大学の入試で求められる学力に合わせるべきかが明確になっていないことです。だからこそ、大学受験者向けのきちんとした共通基準ができれば、進学校はそちらに合わせて授業を設計すればよいことになります。今までのように、各大学の入試問題を研究しながら、手探りで授業目標を定める必要もなくなります。
飯塚 ではなおのこと、アドミッション・スタンダードの確立に向けて、高大の協力が必要ですね。弊社「高大接続に関する調査」の結果からも、高大連携の必要性を強く感じている大学が多いことが分かっています。いわゆる「出張講義」など、高校生対象の高大連携だけではなく、高大双方の教員が共同研究会等を設置して、入試の在り方を検討するような場づくりが必要です。学習プロフィールと人材育成の連続性を確保するためにも、これからの入試改革を真剣に高大間で協議することが求められていくと思います。
荒井 そうですね。国大協の入試委員会では、これからの入試改革のフレームワークを設定すべく、専門委員による検討を現在行っています。06年度には議論を固め、08年度以降の入試改革の在り方が示されると考えています。高校側の意見を踏まえた議論とするためにも、高大が今後の入試について協議する場が不可欠だと考えます。
飯塚 本日はお忙しいところありがとうございました。
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