指導変革の軌跡 岡山県 ベル学園高校「学習動機づけ」
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 8/11 前ページ  次ページ

取得資格に代わる目標を見いだした保育コース

 取得資格がなくなる――。この、最も厳しい状況に直面したのが総合福祉科保育コースだ。保育コース主任の長瀬眞由美先生は、次のように振り返る。
  「保育士資格の取得が大学・短大・専門学校に繰り上げられたため、保育士を目指す生徒は上級学校へ進学しなくてはならなくなりました。しかし、将来大学や短大を目指そうとしても、普通科の生徒には学力で太刀打ちすることはできません。普通科の生徒に負けないだけの自信を付けさせるにはどうすればいいのかということを考えた末に立ち上げたのが『ももたろう劇場』だったのです」
  「ももたろう劇場」は、地域の子どもたちを招いて人形劇やオペレッタの公演を行うもので、毎年春と秋の2回開催、例年1500名近い観客動員数を誇る保育コースの中心的な取り組みだ(図1)。「児童文化」や「造形」「音楽」など保育コースの各教科の要素を取り入れ、「保育版」総合学習といえる教科横断的な取り組みとしている点が特徴である。

図1

図1

  更に、学年を追うごとにより高度な内容に発展していくことも、「ももたろう劇場」の特徴だ。1年次の「ブラックファンタジー」では、生徒は暗闇の中でパーツを動かすだけで直接舞台に姿を現さない。それが、2年次の人形劇では司会・進行などを務めるようになり、3年次には全身を出してオペレッタを披露するまでになる。各教科で学んだ内容を総合し、段階を追って徐々に高度な内容に挑戦し、成し遂げていく達成感が、生徒に自信を与えるのである。
  「生徒にとって何よりの喜びは、歓声を上げて舞台に見入る子どもたちの顔です。自分たちの舞台が、これほどまでに子どもたちを感動させるという体験が大きな自信につながるんです」(長瀬先生)
  また、集団活動を通して生徒の中に協調性が芽生えていくのも、「ももたろう劇場」のよさだ。近年の生徒は自己中心的な生徒が多く、以前よりも、皆で一緒に力を合わせて何かに取り組まなくなったということはよく指摘される。ベル学園高校でも、遅刻や欠席が原因で、生徒同士ぶつかり合うことがしばしばあるという。だが、生徒同士のいざこざが起こった時、教師はあえて口を出さず、生徒同士で解決させるようにしている。
  「生徒同士が真剣に言い合うことで、自分が休むと他のすべての参加者に迷惑をかけるということが実感として分かります。生徒同士でぶつかり合うことができるクラスほどまとまりは早いんです」と長瀬先生は述べる。
  一連の活動が、生徒が上級学校を目指す原動力になっているのは想像に難くない。保育コースには、やむを得ず入学したという生徒もおり、入学時点で保育士を目指す生徒は半分程度。それが、卒業時点では6~8割程度が保育士を志望し、短大や専門学校を目指すようになるという。
  自信や達成感が、新たな進路への扉を開くきっかけになっているのである。


  PAGE 8/11 前ページ 次ページ