私がアポトーシスの研究を始めることになったのも、好奇心を突き動かされたからです。
スイスから日本に戻ってきた私は、米原伸(※6)先生と再びインターフェロンの研究に取り組んでいました。インターフェロンには、細胞に侵入しようとするウイルスを防ぐ働きがあります。そこでインターフェロンの働きを止めると、細胞がウイルスに感染しやすくなることを、実験によって確かめようと考えたのです。ところが、その実験中に米原先生が、インターフェロンやウイルスに関係なく細胞を殺す働きを持つ「Fas」というタンパク質を、偶然発見しました。
細胞は、栄養が不足するとすぐに死んでしまいます。しかし、米原先生が見つけたのは、そうした自然死ではなく、積極的に細胞を殺すタンパク質が存在するということでした。死に方も細胞がバラバラになって死んでいく普通の死とは違って、タンパク質が細胞を包み込んで、押し潰されるように死んでいきます。調べると、こうした細胞死は「アポトーシス」と呼ばれていることがわかりました。しかし、そのメカニズムは、当時全く解明されていませんでした。
「なぜ、細胞を殺すタンパク質が、体の中に存在するのだろう」と、私はとても不思議に感じました。きっと生物が生きていく上で、必要な役割を担っているはずです。
新しい研究は、偶然の出合いから始まります。「なぜだろう」と疑問を持ったら、その解明に取り組んでみる。そうしてなぞが解き明かされ、科学は進歩していきます。私は、今度はアポトーシスの研究に夢中になりました。91年に初めて論文を発表し、今でも研究を続けています。
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