1980年代以降の日本は、教育改革の方向性を模索し続けている状況です。その過程ではマイナス面ばかりが強調される傾向にありましたが、戦後の日本の教育は、国際的に高く評価されてきた数多くの長所を備えているのも事実です。
例えば、海外の研究者が日本型教育の卓越性として認めることの一つに、学校が、個々の生徒だけでなく「クラスを集団として育てる」ことを目標としてきたことが挙げられます。日本の教師は「クラスが成長する」という言い方をしますが、これはほかの国では聞かれません。教科学習だけでなく、ホームルームや学校行事などを通してクラスを集団として育てようとする指導は、日本独自の優れた視点といえるでしょう。
その努力は生徒のドロップアウトを防ぐ役割も担ってきました。日本では学力だけで生徒を競わせずに、学校行事や部活動をはじめとした特別活動を充実させて、勉強が不得意な生徒でも活躍できる場を与えてきました。更に、高校は義務教育ではないにもかかわらず、学力下位層に対して補習を行ったり、追試や特別課題を与えたりして、手厚くフォローしてきました。
近年、PISAやTIMSSといった国際的な学力調査の結果から、日本の子どもの学力低下が問題視されていますが、家庭学習時間の少なさを考えれば、十分健闘しているといえます。こうした現場教師の努力は、正当に評価すべきでしょう。
その結果、日本の学校ではドロップアウトする生徒の割合が極端に低い。日本の高校進学率は97%を超えていますが、その中で中退する生徒はわずか2.1%です。アメリカでは高校を卒業する生徒は80%を下回りますし、ヨーロッパでも似たような状況です。フランスでは中等教育の修了資格である「バカロレア」の取得者は83%ほどにとどまっています。非取得者がフルタイムの仕事に就くのは実質的に困難なことが社会問題になっており、これまでにも国を挙げて資格取得率の向上策が講じられてきました。
また、ヨーロッパの大半の国々は、小・中学校に落第制度を設けています。日本では考えられないことですが、基準点に達しなければ小学生でも落第してしまうのです。しかし、落第した子どもを奮起させるのは難しく、むしろ劣等感を強めてしまい、そのまま底辺を歩き続けるケースが非常に多いことがわかっています。そのため、ヨーロッパ各国では、落第よりも進級を優先させる方向に制度・指導方針を転換しつつあります。
こうした状況を踏まえても、ドロップアウトを未然に防いできた日本型の教育に利点があることは明らかです。
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