特集 高校教育の「不易と流行」
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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部活動を通じて生徒が学校で過ごす時間を確保

 海外と比べた場合に、もう一つ日本の教育の長所といえるのは、部活動などを通して、生徒が学校で過ごす時間を長く確保していることです。

 基本的に学校は、生徒に対して教育的に好ましい活動の場と機会を提供しています。それに対し、学校外での活動時間が増えるとどうなるか。教師が学校外での活動をコントロールすることは困難ですから、生徒は自ずと家庭や地域社会の影響を強く受けます。教育熱心な家庭は生徒を学習塾に通わせますが、それ以外の生徒の多くは遊びに夢中になるでしょう。テレビゲームに熱中する生徒もいれば、仲間と街中をぶらつく生徒もいるでしょう。その多くは、自分の可能性を積極的に探るようなポジティブな活動ではありません。

 一方では学習塾に通い、他方では無駄に時間を過ごす生徒がいる。それによって学力に顕著な開きが生じ、興味や関心の違いも大きくなる。生徒がその「差」を学校に持ち込むわけですから、今以上に生徒の二極化が進むことは否めません。そうならないためにも、部活動や課外活動を通して、生徒が学校で過ごす時間を維持する必要があると思います。

 事実、日本の部活動は他国の手本になってきました。80年代のイギリスでは、日本の教育の良い面を取り入れようと、部活動が積極的に導入されました。私が見学したある学校に、スポーツのクラブと並んで「Study Club」がありました。日本語に直すと「補習クラブ」で、日本から学び取り入れたそうですが、これが現地では最も人気が高く、学力向上に一役買っているということでした。

 日本型教育の最大の特徴としては、“単線型”のシステムも見逃せません。これは、どのようなタイプの学校に通っても進学先が制限されない、という制度です。日本では、全国のどの小学校や中学校、または高校に通っても、大学への進学の道が閉ざされることはありません。個々人の頑張り次第で、どの大学への門戸も開かれているのです。

 一方、歴史的に階級社会が浸透していたヨーロッパでは、“複線型”の制度が一般的でした。これは、ある学校に通った生徒は大学に進学できないなど、その後の進路が制限される制度です。例えば60年代までのイギリスでは、パブリック・スクール(注1)、グラマー・スクール(注2)と呼ばれる学校に通わなければ、大学には進学できませんでした。

 しかし、社会の発展に伴い、複線型の教育制度が教育格差を増大させるデメリットが認識され、単線型や“準単線型”への移行が進んでいます。イギリスでもコンプリヘンシブ・スクール(注3)と呼ばれる総合型の学校を設置し、大学進学の機会を平等に与えるようになりました。だれもが進学を制限されないシステムは、教育的に見れば望ましいものといえるでしょう。

注1)主にイングランド地方での中・上流階級の子弟のための私立中等学校の通称

注2)イギリスの伝統的な公立中等教育機関。ギリシャ語やラテン語の文法を主な教育内容としたことに由来する

注3) 5年制の総合制中等教育機関で、日本の公立中学・高校のように大多数の子どもが通う学校。そのかなりは大学入学資格試験の準備をするシックス・フォーム(第6学年)を併設している。


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