90年代後半から現在までは、「学びを動機付ける装置の不在」と言い表せます。一握りの大学をめぐるし烈な競争は残るものの、全体としては少子化によって受験競争は緩和されました。かつては「受験」や上昇志向が勉強の動機付けになっていましたが、それが音を立てて崩れたのです。特に最近は、より上を目指すのではなく、「今より下がらなければよし」と考える生徒が増えているように見受けられます。
また、大学では推薦入試やAO入試による募集が増え、高校では秋以降、その合格者を勉強に向かわせられないという問題も深刻化しました。
そんな状況の打開に向けて、90年代半ばから、新たな動機をつくり出そうとする動きが活発化しています。その象徴的な取り組みが福岡県立城南高校のドリカムプラン(注1)に代表される「進路学習」への切り替えです。
従来の進学指導では、生徒の学力偏差値に合わせて入れそうな大学を助言する指導が主流でしたが、進路学習では生徒自身に将来の展望を描かせて、それに沿った進路を自分で模索させます。こうした指導はキャリア形成教育ということもでき、現在の進路指導のポイントになっています。
一方、大学ではAO入試の増加などもあって、同じ学部内でも学力や興味・関心が異なる学生が混在するという現象が起きています。また、以前は高校から大学への進学はジャンプして別世界に入るイメージでしたが、大学全入時代を前に、今では地続きになっています。そのため、大学でも高校教育を踏まえた大学教育を展開するようになってきました。
そのような事情から、大学では「教育重視」の改革が進められています。多くの大学が、シラバス(教育の詳細な計画書)や、ファカルティ・ディベロップメント(教育内容を向上させるための組織的な取り組みの総称)といった言葉を使い始めているのは、その表れです。また、「1年次導入教育」と称し、読み・書きやコミュニケーション、プレゼンテーションなど、大学で必要なスキルを身につけさせる教育が目立つようになったほか、「自校史」を学ばせる大学も増えています。大学の歴史を学ばせて帰属意識を高め、同時に自分の居場所を確認させることは、学びの意欲を刺激します。どの大学にも不本意ながらに入学した学生は存在しますが、そうした学生にとっても自校史の学習は非常に有意義です。自校史の学習は、高校での学習場面でも学びの動機付けに有効なのではないでしょうか。
|