特集 高校教育の「不易と流行」
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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これからの高校教育

今後の高校教育は、どのような針路をとるべきか。 そして現場の教師は何を心がけて指導に携わるべきか。

永井教授は三つのキーワードを提案する。

これからの高校教育をブラッシュアップする三つのキーワード

 日本の高校は事実上の準義務教育機関として、97%という極めて高い進学率を維持しています。しかも、中退者は2%程度にすぎません。これは世界的に見ても極めて優れた状況で、教師の努力の賜(たま)物にほかならないと思います。

 しかし、三十余年の歴史を振り返って見てきたように、高校教育は大学入試によって変化を余儀なくされる面がありました。大学入試の変化を踏まえながら、高校がよりよい教育を行うにはどうすればよいのか、そのために必要と考える三つのキーワードについて説明します。

図1
1 市民教育

 私は、高校は単なる大学への接続機関ではなく、市民として“完成”された人間を育てる場だと考えています。事実、それは、学校教育法の第四十二条「高等学校教育の目標」においても、「国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養う」などといった文章で明言されていますが、ほとんど知られていないのが現状です(図2参照)。

 学校教育法が公布された47年当時の高校進学率は40%程度ですから現在とは状況が異なり、全く同じレベルをすべての生徒には要求できませんが、その目標を念頭に置いて学校ごとに工夫することを忘れてはなりません。

 高校では、小・中学校に比べて「総合的な学習の時間」への消極的な姿勢が目立ちますが、むしろ高校こそ、体験学習や課題学習などを通じ、知の総合化と共に、“市民”を育てるための教育を充実させてほしいと思います。

図2
2 「接続」と「連携」

 「接続」と「連携」は高校教育に広がりをもたらす重要なキーワードです。まず「接続」に関しては、高校と大学の組み合わせがあります。「飛び入学」や「出前講座」をはじめ、その取り組みの輪は徐々に広まっており、確かな手応えを得ているケースも多く見受けられます。(図3参照

 また、推薦入試やAO入試の合格者に対する教育も、高校と大学が協力すべきです。あくまでも高校が主導しつつ、大学も「入学前教育」と捉えて積極的にかかわってほしい。逆に、近年、大学で実施されている高校の学習範囲の補習には、高校の教師がチームティーチングなどの形で参加することがあってもよいのではないでしょうか。また、高大連携による果実を得るだけではなく、中学校との「接続」にも積極的に取り組んでほしいと思います。

 「連携」には、高校同士、更に高校と地域や企業との組み合わせがあります。高校同士が連携する大きなメリットは、学校間の格差に風穴を開けられること。近隣の高校と一緒に学習会を実施したりすれば、教師にとっては「うちの生徒」「よその学校」という閉鎖的な考え方から解放される可能性も秘めています。生徒にとっても他校の生徒から大きな刺激を受けることができます。

図3
3 持続可能な社会

 日本では少子高齢化が世界でも一、二を争うスピードで進んでいます。子どもの数が減少する状況で国家としての活力を維持するには、子ども一人ひとりの能力を高めるしか方法はありません。現在2%程度の高校中退率が、仮に5%や10%に跳ね上がった場合、極めて深刻な社会問題になることは間違いありません。

 ですから、今のうちに一人ひとりをケアするバックアップシステムを整えてほしいと思います。そのコストは、実際に顕在化した問題を解決するのに必要な社会的コストに比べれば、ずっと安く済むはずです。

 先生一人ひとりができることには、限りがあります。けれども「持続可能な社会」を念頭に置き、一人ひとりの能力を引き出し高め、そして生涯学習の基盤づくりにつなげていく。そうしない限り、日本の将来は危ういと考えていただきたいのです。

 そのためには、学ぶ喜びと学習方法を身につけさせておく必要が生じます。無論、中退や不登校を可能な限り減らしていく努力が不可欠なことも言うまでもありません。


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