未来をつくる大学の研究室 電波天文学・星の誕生
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研究方針と業績
膨大なデータ解析により普遍的な法則を探る

 電波で宇宙を見る手法と共に、もう一つ、私が一貫して重視している研究は、膨大な量の観測データの蓄積です。私が駆け出しの研究者だったころ、ほとんどの天文学者は宇宙空間全体から見ればごく一部の範囲しか見ていませんでした。私はほかの研究チームよりもはるかに膨大なデータを採取することで、普遍性のある法則が導き出せるのではないかと考えました。そこで、視野の広い口径4メートルの電波望遠鏡(※9)を駆使して、これまでに銀河系で100万点、隣のマゼラン銀河(※10)で10万点を観測しました。この量は、それまでに世界中の天文学者が採取した全データ量を超えているのではないかと思います。

 この方針が正しかったことは、その後の研究成果が雄弁に物語っています。80年代後半、80個もの「双極分子流(※11)」を見つけたのも大きな成果でした。この現象は当初、重い星だけの現象だと考えられていました。しかし、観測の結果、太陽くらいの小質量の星でも例外なく起こっていることがわかり、世界中の研究者を驚かせたのです。

 「星のたまご」や「双極分子流」を発見したことで、自分の研究の方向性が正しいと確信した私は、96年からマゼラン銀河の観測に着手しました。日本初の本格的な海外天文台である「なんてん(※12)」を南米チリのラス・カンパナスに設置し、世界に先駆けてマゼラン銀河における分子ガス雲の形成を調べ始めたのです。

 世界で初めて発見した「分子雲スーパーシェル(※13)」も「なんてん」の成果の一つです。分子ガス雲ができるプロセスは、いまだなぞに包まれているのですが、この発見により、原子ガスが分子ガス雲に転換する仕組みの一端が判明しました。また、05年には300個もの分子ガス雲を観測した結果、その多量のサンプルから、巨大分子ガス雲のカテゴリー分類を行うことができました。これも世界初の快挙であり、銀河の歴史を解明する重要な手がかりになることは間違いありません。

用語解説
※9 電波望遠鏡  宇宙の電波を観測するための望遠鏡。望遠鏡の視野は口径の2乗に反比例するため、口径が小さいほど観測範囲が広い。口径10メートル級の望遠鏡が主流だが、福井教授の研究室では、視野の広さを重視して口径4メートルの望遠鏡を使用。
※10 マゼラン銀河  マゼラン銀河は銀河系に一番近い銀河(16万光年)。その次に近いアンドロメダ銀河(230万光年)よりも200倍暗い星まで観測できる。南半球でしか観測できないが、銀河のちょうど真上から見ることができ、観測に適している。
※11 双極分子流  原始星から噴出するジェット状のガス流。これにより、周囲のガスは吹き払われ、原始星の回転が遅くなるために遠心力が弱まり、周囲の分子ガスを重力で引っ張りやすくする効果もある。小さな恒星でも例外なく起こることがわかり、太陽系の形成を考える上でも大きな発見となった。
※12 なんてん  日本の研究機関が初めて海外に敷設した天文台。現在は、アタカマ高地(標高4800メートル)に移設した「NANTEN2」で観測。
※13 分子雲スーパーシェル  超新星爆発によって飛び散った原子ガスが、はきためられることでできる分厚い分子ガスの層。
Pick Up
分子ガス雲の分布は銀河の進化を解く鍵になるか

  マゼラン銀河で発見された300個近い分子ガス雲。そのカテゴリー分類を福井教授が世界で初めて行ったことは本文で述べた。その分類とは、(1)全く星をつくっていないガス雲(2)少しつくり始めたガス雲 (3)活発につくっているガス雲、の3つである。これにより、分子ガス雲の中で、時間の経過と共に質量がどのように変化していくのか、そのプロセスが初めて明らかになったのである。

 福井教授によると、「星の進化のプロセスを測る重要な物差しになる」という。つまり、このデータを別の銀河にあてはめることで、その銀河における星々の進化のあらましまでも解明できる可能性があるのだ。多くの銀河の成り立ちが明らかにされる日も遠くないのかもしれない。


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