私たちの研究室は世界の天文学をリードしつつありますが、天文学だけに力を注いでいたのでは、ここまでの成果を得ることはできませんでした。研究の成果を最大限に上げるためには、物的・人的資源を最適に配分する経営的な視点も必要です。研究を始めた当初から、世界最高感度の超伝導受信機(※14)の製作、膨大なデータを迅速に処理するためのソフトウエアの開発などに尽力しました。
技術系スタッフを育成し、研究方針や意義を的確に伝えることにも心を配りました。私たちのチームは研究者3名に大学院生を加えた20名程度の小所帯です。研究成果に比べて人が少ないとよく驚かれますが、限られた資源を最大限に生かしているからこそ可能なのです。
「なんてん」の設置前には1年間、資金集めに奔走しました。200以上の企業・団体を訪問しましたが、数億円以上かかるプロジェクトだけに、当初は賛同してくれる企業はほとんどありませんでした。しかし、その意義や思いを訴え続ける中で思いがけない協力や援助が得られ、「名古屋大学 星の会(※15)」という支援団体もできました。この経験のおかげで、さまざまな分野の人々との交流が生まれ、自然科学の魅力を社会に伝えていくことの重要性も痛感しました。
天文学の研究が生活にどう役立つのか、疑問に思う人がいるかもしれません。しかし、天文学の成果の多くは、私たちの生活を支えてくれています。例えば、携帯電話にも天文学から始まった量子力学の成果が反映されています。また、地球上を回る人工衛星も400年近く前に発見されたケプラーの法則(※16)がなければ開発できませんでした。
それ以上に大切なのは、宇宙と向き合うことが「人間とは何か」という人類の根元的な問いへの考察の機会を与えてくれることです。人間の体を形づくる元素はすべて宇宙が生み出したもの。宇宙は別世界などではなく、人間も宇宙を構成する一要素なのです。人間がいかに社会や自然と向き合えばよいのか、そのヒントを与えてくれるのが宇宙なのです。
宇宙には、私たちの知らない世界がまだまだあります。研究すればするほど、つくづく人間は無知なものだと痛感します。しかし、だからこそ新しい発見にわくわくした喜びを感じられる。宇宙こそ、知的好奇心とチャレンジ精神を満たしてくれる最高の舞台なのです。
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