「まさかこれほどとは……」
2005年春、広島県立世羅高校の教師たちは、大学入試の予想外の良い結果に驚きの声を上げた。前年度9名だった国公立大合格者数は、この年30名と、一挙に3倍以上となったのだ。改革を始めて3年、その成果は早くも数字となって表れた。
世羅高校が改革に着手した背景には、地域の過疎化という問題があった。世羅高校のある世羅町は農業を基幹産業とする人口約1万9000人の町。近年は若年層の流出が進み、65歳以上の高齢者が全人口の3分の1を占める。高校進学者も、特に学力上位層が次々と近隣の福山市や三原市などの都市部へ流出していた。
05年度からは広島県で高校の学区が撤廃されることが決まり、学力上位層の流出が一層加速することが予想された。そうした中、世羅高校では定員割れが恒常化し、徐々に活気が失われていったという。北川洋一校長は次のように振り返る。
「学力上位層が抜けたことで、進学意識は全体的に低下し、進学実績が伸び悩みました。伝統的に力を入れてきた部活動も思うような結果を出せず、当時は学校全体が活気を失っていました。そうした状況で、優秀な生徒を呼び込むためには、結果を出して地域の人々の信頼を勝ち取ることが重要だと考えたのです」
世羅高校はまず指導体制を変えた。02年度に、1、2学年の普通科と専門学科で国数英の習熟度別授業を導入。世羅高校には普通科のほか、生活福祉科、環境科学科、生産情報科の三つの専門学科があり、生徒の進路は大学進学から就職まで多種多様だ。学力層の幅も広く、指導の成果を上げるためにも、上位層から下位層まで学力に応じた個別の対応が必要だった。
03年度には、普通科3クラスのうち1クラスを特進クラスとした。学校全体で国公立大進学を強化していく、という決意を学内外に示したのである。この特進クラスの設置こそが飛躍のきっかけだったと、主幹の森一浩先生は振り返る。
「特進クラスの設置により、国公立大に進学したいという明確な意志を持った生徒が入学するようになりました。これは大きかったです。特進クラスが核となり、ほかのクラスの大学進学希望者にも精神面で良い影響を与えるという効果もありました」
05年度には、3年次に行っていた特進クラスの文理分けを2年次で行い、早期から個別指導を徹底できる体制を整えた。進学校への脱皮を図る体制はこうして整備されていった。
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