――2003年のPISAの学力調査を機に、改めて国語教育における読解力の指導の在り方が見直されようとしています。PISAが高校現場に提起した課題とはどのようなものだったのでしょうか?
清水 高校での国語教育が、大学入試対応の指導に偏りすぎていたということは、これまで大勢の教師が感じていたことだと思います。校内のテストでも、出題範囲は授業で扱ったところが大半で、ある程度授業で解答の方向性を確認した上で出題することが多い。客観的に採点できる設問でなければならないという思いが、教師の側にも強くあるからです。
そのため、国語でありながら「答えは一つ」という傾向があります。そこにPISAが突きつけたのは、単にテキストを読んで理解するだけではなく、テキストの内容や表現、論理性などについて評価をしたり、自分の知識や経験と関連付けて批評したりする力を身につけさせることの大切さです。PISAではこれを「読解リテラシー」といいますが、従来の国語の授業にそうした視点が少なかったことは確かです。
一柳 今の日本の学校現場では、テキストを多角的に読む指導が欠けていると思います。教師が教えた「読み」が中心であって、それを試験で答えられたら正解だと。実際には、同じテキストでもさまざまな視点から読み解くことができます。「読む」とは、本来、テキストに書かれていない知識や経験も材料にして、多角的に読んでいくことなのでしょう。
清水 ただし、忘れてはならないのは、PISAが重視する読解力は大学や社会に出てから基礎となる力であり、本来、高校の指導でも重視されてきた読解力の延長線上にあるということです。高校の学習指導要領でも「伝え合う力」の育成を重視しています。自分の考えを論理的に述べる、情報を収集・整理し、正確に伝える文章を書く力を養う。テキストに記された内容を理解し、自己の体験などに照らして熟考することを前提にしているわけで、まさにPISAが重視する「読解リテラシー」と方向性はほぼ同じです。
小論文入試でも、特に医療系では「インフォームド・コンセント」「ホスピス」「移植」など、具体的なテーマについて意見を求めてきます。こうしたテーマを論じるには、日頃から問題意識を持っていなければ書けません。そうした意味では、大学入試と無関係とは言いきれないと思います。大学や社会で求められる基礎的な読解力をいかに授業で身につけさせるか。そうした視点からも、私たち教師は積極的に授業の動かし方などを工夫していく必要があるのかもしれません
一柳 そうですね。ただ、PISAが求める読解力を強調しすぎることで、基礎・基本の力がおろそかにならないよう注意すべきだと思います。今の高校生はよく発言しますが、論拠がない場合が多い。自分の考えを書くことを重視するあまり、そうした生徒が増える心配があります。
求められる読解力を身につけるにしても、まずはテキストの内容をしっかり掌握することが大前提です。その上で、多角的な読みと自分なりの批評を加えていく方法論を教える。授業でいかにそうした視点を提示できるかが、これからの国語教師には問われるでしょう。
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