――求められる読解力を高めるために、どのような授業の工夫が考えられるでしょうか。
一柳 単に文学作品を読ませて、鑑賞させることが国語の授業だと考える教師はほとんどいないでしょう。テキストを客観的に読み、内容やメッセージをしっかり理解した上で、自分なりの意見を持つまでにつなげられるような指導をしなければならないと考えているはずです。
しかし、授業時間が少なく、踏み込みたくてもできないのが現状です。そうであれば、あまり難しく考えず、できるところから始めればよいのではないでしょうか。授業中に「この小説の主人公は好きか嫌いか」といった投げかけをするだけでも、生徒にとっては考えるきっかけになります。また、「この文章は悪文である」という問題提起を行い、なぜだめなのかを、生徒にわかりやすく伝えるのもよいのではないでしょうか。
まずは、テキストを多角的に読むための視点を提供し、その上で自らの経験や考えと照らし合わせていく訓練をさせるわけです。
清水 私はかつて中島敦の『山月記』を読ませて、「私が李徴(主人公)だったら」というテーマで作文を書かせました。そうすると、生徒からは結構面白い意見が出てくるんです。李徴は詩人として名を成したいという執着から虎になるのですが、「たまたま虎になってしまったが、プライドを持っている点では、李徴はその辺の人間よりも素晴らしい」と書いた生徒がいました。
ある意味では危険な読み方かもしれませんが、その生徒は「プライドを持って強く生きないと世間の荒波に飲み込まれてしまう」ということを直感的に感じたのでしょう。生徒間でいろいろな視点や捉え方を共有することも有効です。
こうした問題提起を繰り返すことで、自分の経験や考えに引き付けて、文章を深く読む力が養われるのではないでしょうか。
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