政治を制度面だけでなく、市民が政治に対してどのような思いを抱いているかという視点から研究することは、今も大切にしています。
例えば、民主主義が有効に機能するためには、一般的には一党独裁よりも、複数の政党があった方がよいとされます。権力のチェックをする立場にあるマスコミも、同じように複数あることが重要だと言われます。
日本は政党も複数あるし、マスコミも多数あります。それでも大半の市民は「自分が国の政治に参加している」という意識を持っていません。自分の意思とは関係なく、政治家が勝手に政治を動かしている、という意識が強いのではないでしょうか。
日本は、制度面だけを見れば民主主義の要件を満たしているはずですが、市民の側から見るとそれが十全に働いていません。なぜ民意が反映されない国になっているのか。阻害要因を探り、解決策を見つけ出すのが、政治学の大切な役割なのです。
私がセンター長を務める多文化市民意識研究センターは、ほかの国々の研究者と連携しながら、日本や韓国、中国、インドネシアなど14か国を対象に市民の意識調査を行っています。民主主義の要件を制度的に満たしているかどうかと同時に、「その国で暮らしている市民がどう感じているか」を調べていくのです。
すると興味深い結果が見えてきます。イスラム圏の国々というと、一般に女性の地位が低く虐げられているというイメージがあります。しかし、意識調査の結果からは、同じイスラムの国でも多様で、女性が社会でいきいきと活躍している国も少なくないことがわかりました。バングラデシュやパキスタンでは、女性が首相にまでなったことがあります。
一方、日本は制度的には男女平等ですが、女性の社会進出は極めて限られています。その理由は、意識調査の結果を見ると明らかです。日本では、子どもを育てながら働くことに困難を感じている女性が非常に多いのです。そのことが、女性が社会に対する参画意識を持てない大きな要因の一つになっているわけです。それを解決するために、託児所の充実や幼保一体化(※6)を進めることが、国や自治体が最も力を入れて取り組むべき施策であることが見えてきます。
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