さまざまな国の市民意識を明らかにすることは、国家間の関係をよりよいものにしていくためにも重要です。
例えば、日本と韓国の関係は、歴史教科書問題など、解決が困難なものが多く、政治レベルでは決してうまくいっているとは言えません。一方、日本では「冬のソナタ」以来の韓流ブームで韓国に対する関心が高まっていますし、韓国の若者の多くは日本のアニメなどに夢中です。市民間の交流は、着実に根付いてきました。
こうした市民間の交流がなければ、日本と韓国の関係はもっと悪化していたと思います。互いの市民の顔が見えないと、「何て勝手な国民なんだ」という意識ばかりが増長されてしまいます。しかし、市民レベルの交流があることで、「韓国(日本)の中にも、いろいろな考え方の人がいるんだ」「国の政策と国民の意識は必ずしも一致していないんだ」といったことが感じ取れるわけです。
EU(※7)の試みも、市民間の交流なくしては成り立ちません。EUを主導しているドイツとフランスは、過去に何度も敵対し、戦争を繰り返してきました。両国とも自国の文化に強い誇りを持っています。しかし、自国に対するアイデンティティは保ちながらも、市民間の文化交流を重ねることで、トランスナショナル(※8)な意識が育まれていったのです。
今、世界情勢を見れば、EUにせよNAFTA(※9)にせよブロック化が進んでいます。そうした中で、日本は隣国との関係構築さえもできないようでは、世界の流れに乗り遅れ、孤立してしまうでしょう。
そこで重要なのが、市民意識の共有化です。日本や韓国の市民が、自国の政治に対して、あるいは相手国に対してどんな思いを抱いているかを明らかにし、それを互いに共有化していく。実は、多文化市民意識研究センターでも、互いの国の新聞記事や選挙結果、法令などをそれぞれの国の言葉で読める多言語データベース(写真3)を構築しました。このシステムを使えば、韓国の新聞記事を日本語で検索することができます。さまざまな国で行っている調査データもこのシステムに載せることで、情報共有を図っていきたいと考えています。
このように政治学とは、「今、社会で起きている問題について、何が原因でどうすれば解決できるのか」を探り、提言する学問です。育児の問題も教育問題も、すべて政治が密接にかかわっています。おそらく、今の社会の在り方に100%満足している人はいないと思います。「世の中、どこかおかしいぞ」と少しでも疑問を感じているのなら、是非政治学の扉を開いてみてください。
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