未来をつくる大学の研究室 分子生物学・アポトーシス
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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研究の最先端
市民意識の共有化が国家間の関係をも変える

 さまざまな国の市民意識を明らかにすることは、国家間の関係をよりよいものにしていくためにも重要です。
 例えば、日本と韓国の関係は、歴史教科書問題など、解決が困難なものが多く、政治レベルでは決してうまくいっているとは言えません。一方、日本では「冬のソナタ」以来の韓流ブームで韓国に対する関心が高まっていますし、韓国の若者の多くは日本のアニメなどに夢中です。市民間の交流は、着実に根付いてきました。
 こうした市民間の交流がなければ、日本と韓国の関係はもっと悪化していたと思います。互いの市民の顔が見えないと、「何て勝手な国民なんだ」という意識ばかりが増長されてしまいます。しかし、市民レベルの交流があることで、「韓国(日本)の中にも、いろいろな考え方の人がいるんだ」「国の政策と国民の意識は必ずしも一致していないんだ」といったことが感じ取れるわけです。
 EU(※7)の試みも、市民間の交流なくしては成り立ちません。EUを主導しているドイツとフランスは、過去に何度も敵対し、戦争を繰り返してきました。両国とも自国の文化に強い誇りを持っています。しかし、自国に対するアイデンティティは保ちながらも、市民間の文化交流を重ねることで、トランスナショナル(※8)な意識が育まれていったのです。
 今、世界情勢を見れば、EUにせよNAFTA(※9)にせよブロック化が進んでいます。そうした中で、日本は隣国との関係構築さえもできないようでは、世界の流れに乗り遅れ、孤立してしまうでしょう。
 そこで重要なのが、市民意識の共有化です。日本や韓国の市民が、自国の政治に対して、あるいは相手国に対してどんな思いを抱いているかを明らかにし、それを互いに共有化していく。実は、多文化市民意識研究センターでも、互いの国の新聞記事や選挙結果、法令などをそれぞれの国の言葉で読める多言語データベース(写真3)を構築しました。このシステムを使えば、韓国の新聞記事を日本語で検索することができます。さまざまな国で行っている調査データもこのシステムに載せることで、情報共有を図っていきたいと考えています。
 このように政治学とは、「今、社会で起きている問題について、何が原因でどうすれば解決できるのか」を探り、提言する学問です。育児の問題も教育問題も、すべて政治が密接にかかわっています。おそらく、今の社会の在り方に100%満足している人はいないと思います。「世の中、どこかおかしいぞ」と少しでも疑問を感じているのなら、是非政治学の扉を開いてみてください。

用語解説
※7 EU  欧州連合(European Union)のこと。EC(欧州共同体)を基に93年に発足。加盟国は25か国(06年11月現在、外務省ホームページより)。
※8 トランスナショナル  「一国の利害にとらわれない」「国境を超えた」といった意味。
※9 NAFTA  アメリカ、カナダ、メキシコの3か国間で結ばれている北米自由貿易協定。94年に発効した。3か国間の貿易品目の関税の撤廃、金融市場の自由化などが盛り込まれている。3か国間の貿易は拡大傾向にある。
写真3
写真3 多文化市民意識研究センターのデータベース。研究の成果を諸外国の研究者も利用できるように、日本語、英語、中国語、ロシア語、韓国語、インドネシア語、マレー語の7言語で検索、表示できるシステムを構築した。法律検索、判例検索、国勢調査検索、選挙結果検索が可能。ウェブサイトで公開し、登録者が利用できる。センター内にサーバーを設置し、特許も取得している。現在の登録者は海外も含めて約1,000人。
高校生へのメッセージ
読書を通じて、考える力を身につけて
 今の高校生は、情報収集能力や情報整理能力はかなり高いと感じます。それに加えて身につけてほしい力は、さまざまな問題に対して、自分の頭で考えて意見を組み立てていく力です。考える力は、本を読むことで養われていきます。著者の意見をそのまま受け入れるのではなく、「本当にそんなことが言えるのか」「こういう見方もあると思う」というように批判的に読むことが大切です。
 また、日本語と英語をしっかり勉強することも大切です。英語はもはや外国語というよりは科学の世界の共通言語です。文献を読んだり、研究発表をしたりと、さまざまな場面で使います。「話す」「聞く」だけではなく、「書く」力も身につけてから大学に入学してください。

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