授業改善をするときには、まず自校の教師の指導状況や生徒の学習状況に問題はないか、また教師の指導が生徒の学力向上に有効に結び付いているかを正確に分析する必要があります。教師の指導や生徒の学習がうまく成り立っていないときには、どこに課題があるのか、問題点を特定します。そして、問題解決のためのより良い指導内容・方法へと見直しを図っていくわけです。今回の調査は、こうした授業改善を実現する上で、大変有用なものだと思います。
教師の指導状況や生徒の学習状況の把握は、多くの場合、教師自身の内省(振り返り)によって行われます。実際に授業を受け持ち、生徒と接している教師の実感は大切です。しかし、ともすれば主観的、自己弁護的になりやすいという弱点もあります。そこで、今回の比較調査のような客観的事実やデータによって、全体の中での自校の位置を知り、自校の抱えている問題点に気づき、授業改善することが重要になってくるのです。
従来型の「知識としての英語力」の育成であれば、教師はこれまでの経験をベースにして授業改善の糸口を見つけ出せるかも知れません。しかし、現在求められているのは「生きた使える技能としての英語力」であり、これまでの経験知が生かせない可能性があります。そのとき客観的な事実・データが授業改善の大きなヒントとなるはずです。
大規模な調査から得られた事実とデータは、高い学力到達レベルへと導いた(導く可能性のある)教師の指導内容・方法、生徒の学習内容・状況が分かるため、問題解決のモデルと成り得ます。ただし、ある指導がすべての生徒に効果的とは限りません。上位層の生徒にはうまく機能した指導も、下位層の生徒にはまったく機能しないケースもしばしば出てきます。
そこで、生徒の学力到達レベルごとに効果的な指導内容を分析したデータが重要になります。そのデータを基に、自校の生徒の学力到達レベルに応じた、授業改善の方法をつくり出していくわけです。今回の調査では、学力到達レベルごとの分析も行われていますから、参考になるでしょう。
ちなみに生徒への効果的な指導方法については、特に第二言語習得研究の分野から提示されています。例えば、大量の理解可能なインプットの供給、アウトプットとその修正の機会の提供、意味を重視した活動の中での言語形式への注意などのモデルを、自分の授業で試しながら授業改善の手掛かりとすることも重要です。
|