緻密な研究計画が策定されているからこそ、指導実践が生きてくる。特に香住丘高校では到達指標として各学年に求められている英語力のスキルが多岐に渡っていることもあり、低学年時からリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの力を同時に育成する4技能統合型の指導を行っていくことになった。また研究細目を研究の開始段階で既に体系化しており、4技能を統合して指導ができるよう技能統合指導シラバスを作成した。
このシラバスを基に、さまざまな技能統合型の指導が、教師集団の共通理解の下、実践されていくことになる。その指導の一つがスピーキング指導だ。
例えば、スピーキングの指導は、1年次では週2時間の「コンピュータ・LL演習」が充てられる。ALT2名が参加してクラスを2分割し、20人はスピーキング、20人はリスニングの授業が実施される。
入学当初の最初の6~8週間は、基本的な発音の指導が徹底して行われ、これを経て暗唱、スキットプレゼンテーションの指導へと発展させ、表現力を身に付けていく。テーマ選定の際は、1年生では自分の身の回りの話しやすい話題を選び、2年生になると現代的な事象を選ぶなど、生徒の発達段階を踏まえた選択が心掛けられる。
「もちろん社会問題なら何でもよいというわけではなく、より議論しやすいもの、異なる視点から意見を述べやすいものを選ぶことが必要です。国際的な事象に触れる機会が少ない生徒を相手にしている本校だからこそ、このことを特に重視しています。教師自身が世の中の流れを見ながら、英語を通して生徒に学ばせるべきものは何か、常に考える必要があるのです」(英語科主任・永末温子先生)
生徒の実態に合わせた段階的な指導は、ライティング指導でも同様だ。1年1学期には、身近な話題を含んだ自己紹介文を書き、スピーキングの授業で発表を行うが、いきなり150語の文章を書かせるようなことはしない。
「まず、テーマに沿った短文を10個書き、それらをつないで150語程度の英文にするというプロセスを取ります。更に、グループに分かれて生徒同士で修正やアドバイスを行っていきます。150語という文章量を負担に感じさせず、生徒が読み手を意識した英文を書けるようになるための仕掛けです」(英語学科主任・永嶋典子先生)
発展期となる2年次には、現代社会の諸問題についていかに自分の意見を論理的に述べられるかを重視した指導が展開される。
香住丘高校ではディベートを選択科目にせず、40人全員が必修としてディベートを学習できるようにしている。3週間で一つの命題を終えることができるよう、1週目では命題の理解、2週目はリサーチ・ディスカッション、そして3週目でディベートマッチを行っている。こうした段階を踏んだ技能育成は、大学入試対策にも大きく影響してくるという。
「実は、期末テストでは150語くらいのエッセイを50分で2本書かせています。高校生にはかなり高いハードルなのですが、ディベートの経験があるのでほとんどの生徒が書けるようになります。もちろんその力は大学入試でも生きてきます。2年生でこれだけ書いているので、3年次に入試対策として特に自由英作文の指導をしなくてもいいくらいです」(梅野惠子先生)
英語科だからといって、リスニングやスピーキングさえできればよいという時代ではないと、江口教頭は語る。
「むしろ大切なのはその中身。生徒に考えさせる授業を進めるために、英語科の先生もさまざまな社会問題について勉強しています。また、他教科の先生に『今度、英語の授業でこの内容を扱うから、そちらの授業でも扱ってほしい』とリクエストしているんです。他教科との連携を図ろうとする意欲は本当に素晴らしいと思います」
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