1.平成15年度の成果と課題
(1)3つの大きな成果
(ア)従来の英語授業の年間指導シラバスの中では、取り上げられなかったり、あいまいな位置づけのままであった英語基礎力の補強のあり方及びスピーチ、ディベート、ディスカッション活動のあり方について十分に時間を取ってかなり詳細に検討することができた。
(イ)ベーススキル訓練(中学レベルの英語を自由自在に操るための訓練)を中心に、スピーチ・ディベート・ディスカッション活動を相互に関連付けた指導を年間指導シラバスに効果的に配置することができた。
(ウ)年間指導シラバスに基づき、指導方法を工夫しながら授業を積み重ねた結果、生徒の英語力が向上した。
(2)具体的な成果
1 バランスのとれた4技能の向上
本校英語科では、4年前よりGTEC for STUDENTSを英語技能力の測定を見るために導入している。そのスコアを暦年比較してみると、研究対象の平成15年度英語科1年生のスコア平均は、スピーキング以外の能力において過去4年間での最高値を記録した。GTEC
for STUDENTSで測定できないスピーキング力については、これまでの過年度生のデータも存在せず暦年比較はできなかった。前述の1年間のスピーキング力の伸張を診るプレ・ポストテストの比較結果によると、39名中26名(67%)の生徒の能力に向上が観察された。その向上の度合いをACTFL
Proficiency guidelinesの評価基準(9段階)に照らしてみると、特に向上が見られなかった生徒13名、1段階向上が22名、2段階以上の向上が4名、という結果であった。
GTEC for STUDENTS(2000年~2003年英語科入学生徒が11月に受験)
2 英語量増大への貢献
今年度本校が研究開発した教科シラバスは、生徒の触れる英語量を、少なくとも従来の2倍以上に増やすことに貢献したと考えられる。
今年度、研究対象生は「総合英語」「Power English I(以下PEI)」「Power English II(以下PEII)」の各教科シラバスに従って授業を進め、教科書を4冊読んだ。総合英語では、前期(4~9月)に『クラウン英語I』(総語数:7,485語)、後期(10~2月)に『クラウン英語I』(総語数:7,039語)、そして年間通じて英語文法教材『デュアルスコープ』(総語数:約6,400語)を読んだ。また、PEI(4~9月)では、中学レベルの教材である『CDブック英会話・ぜったい音読』(総語数:約3,000語)、PEII(10~2月)では、『クラウン英語I』をもう一度読んだ。これら全ての教材の総語数は、31,000語である。さらに、総合英語・PEI・PEIIのそれぞれの授業1コマの中でも同じ英文を繰り返し読むことを重視し、生徒が知らず知らずの間に最低5~6回は同じ英文を読むような仕掛けを作っていたので、この仕掛けがうまく働き生徒が6回読んだとして計算すると、生徒が触れた総英語量は{(17,524語×6回)+3,000}=108,144語になる。仮に仕掛けがうまく働かず3回しか読んでいなかったとしても、55,572語になり、せいぜい1・2回くらいしか教科書を読まない従来の訳読式授業における生徒の総英語数(10,485語)の5.3倍になる。この数値は、あくまでも授業中に生徒が触れた英語数を、使用した教科書と使用した活動内容から推定したものであるが、このように英語量の点から考えて授業改善を試みた結果の一部分であり、意味のある数値であると考える。
以上のように、総合英語に和訳先渡し方式を導入したこと、すでに学習済みの教材をもう一度繰り返し利用したこと、などが英文理解にかかる時間を最小限に押さえ、その分浮いた時間で生徒が触れる英語量を格段に増やすことを可能にした。量を確保しなければ生徒からのアウトプットを多くすることも、その質を高めることもできないという本校の考え、つまり、まず「英語量を増やす」という最初の試みはカリキュラムの中で実現できたと考える。
3 高等学校で中学レベル英語の完全マスターを
従来の年間指導計画においては、中学レベルの英語力をいつ・どのように補強すべきか否か、高校のどの学年・段階からスピーチ、ディベート、ディスカッションという活動を授業に取り入れるべきか否か、という問題は教員の共通認識を取るのが難しく、担当者任せあるいは生徒任せという状況であった。中学レベルの英語に関しては、新入生にはまとまった復習の機会がないのが普通で、3月下旬から4月初旬に中学レベルの英語の復習を本校が指定した復習用テキストを用いて各自が自学自習を行い、入学直後に課題テストという形でその定着度を確認する程度であった。
しかし、今回、1年次前期(2単位60時間)という入学直後の相当な時間を中学レベルの英語の補強・完全定着のために充て、1年次後期(2単位60時間)ではその基礎力の上に高校英語を積み重ね、さらにスピーチ、ディベート、ディスカッションという活動をその基本から段階的に取り入れることはカリキュラム上十分可能であり、生徒の英語力の向上に貢献する効果的な指導であることがわかった。
この結果は私たち高校教員に大きな発想の転換をもたらしたとも言える。これまで、中学レベルは中学校でちゃんとやってくれないと困る的な発想があり、高校教員はあまり中学レベルまで手をつけない(教員に時間的に教える余裕がない・教える力や気持ちがない)状況があった。ところが、高校教員が新入生に関して「この生徒の英語力は高い」という場合の英語力は「読む力」のみを指すことが多く、実際、その生徒は中学レベルの英語を読んで完全に理解できるわけであるが、一方、聞く・話す・書く活動はできないというケースは稀ではなかった。この状況こそ、中学校よりは比較的時間がある高校において打開しなければならない本当の問題であると思われる。したがって、「高校に入学してきた生徒の英語力を入試や前述の課題テストの結果だけではなく英語運用能力という観点で捉え、たっぷりと時間をとって中学レベルの教材で運用能力全般を鍛えなおす」という大きな発想の転換が、今後の高校英語教育の現場には必要であると思われる。
4 明瞭なゴールを示した授業と評価
4技能に一貫した観点・基準を設け、授業での指導と評価との一貫性を重視しながら、1年間通じて学業評価を出すことができた。
従来、高等学校における英語授業の学業評価については、英語運用能力というよりはむしろ定期考査(筆記試験)の結果という色合いが強かった。リーディング、ライティングはかろうじてみれるが、リスニングとスピーキングはみれていない状況であった。英語IやIIにおいては、そのシラバスの中では「総合的な英語力を育成・伸張する」と謳っていながら、実際にはそれらの能力を中・長期的に計画的に育成・伸張するための評価にはほとんど手を付けていないのが多くの学校における実態ではないだろうか。
しかし、本校では英語運用能力を強く意識したシラバス、実際の授業における指導、そして評価をかなりの程度関連付けすることができた。スピーキング・リスニングでは、定期考査にシャドーイングテスト、インタビューテストを導入し、ライティングでは定期考査に音読筆写、トピックライティングを導入した。また、スピーキング・ライティング力に関しては、ACTFL Proficiency guidelinesにより運用能力の具体的基準を学び、日々の指導に生かすことができた。
運用能力別の成績を文書などで十分に生徒に周知することができなかったという反省・課題は残ったが、本校生徒の多くが「英語で・・・ができるようになりたい」と思い・期待して入学している実態から考えて、今後、全ての英語授業のゴールが運用能力に関連付けされた形で生徒に明瞭に示され、指導と評価に一貫性が浮かび上がってくることで、生徒のやる気を促し、さらなる英語学習への動機付けが今以上にうまくできるのではないかという手ごたえを得た。
2.平成16年度の成果と課題
(1)良質のアウトプットに繋がるグローバル教育―学校設定科目Global EducationIのシラバスと指導方法の研究
世界中の様々な課題について基礎的な知識を学ぶために、Languages around the world、Religions around the worldのような10のテーマで授業を行った。その結果、内容の学習に生徒を動機付けすることができ、生徒一人当たりの英語量も増えた。評価システムの点では、いくつかの課題が残った。
(2)多量のインプットを得るための教科書の利用法―和訳先渡し方式を利用した教科書の新しい活用方法の研究
1年次に4冊の教科書(英会話・ぜったい・音読、CrownI、CrownII、DualScope英文法)を読み、2年次には従来ならば高校3年生が使用する教科書(Planet
Blue Reading Navigator)を読んだ。
(3)中学英語の完全マスターから高校英語へ―学校設定科目Power EnglishIIIのシラバスと指導方法の研究
英語によるコミュニケーション能力向上のために、ベーススキルとして中学校レベルの英語の完全マスターを目指して授業に取り組み、さらに英語使用機会を増やし運用能力を高めるためにディベート活動を行った。その結果、中学英語をもう一度学習すること、ディベート活動は生徒の英語力を向上させるのに効果があることがわかった。
(4)多読による個別学習プログラムの研究開発
Graded readerを中心に生徒にとって読みやすいと思われる洋書を準備し、長期間にわたる多読プログラムに取り組んだ。その結果、特に母語で読書習慣がある生徒の動機付けに効果があることがわかった。また、平成17年7月には1ヶ月間の短期プログラムを実施し、1年という長期間のプログラムよりも多くの生徒をプログラムに巻き込める可能性を見い出した。その要因としては、生徒が短期間の特別活動であるという意識を持って取り組んだ、読んだ成果を少しでも成績に加味した、などが多数の生徒を巻き込むことができた主要な要因ではないかと考える。
(5)生徒の英語力の変容(英語力測定データを中心にした報告)
平成15年度から16年度の2年間における研究開発対象生徒の英語力の変容・伸張は、本校が実施した英語力測定テストやアンケート調査で見る限り、課題もあるが、ほぼ順調であると思われる。特に、リスニングおよびスピーキングの能力に関しては、指導のねらいと生徒の実感がほぼ一致する形で伸張している。しかし、リーディングおよびライティングの能力に関しては、まだ生徒の中に自信のなさ、弱点が見受けられ、効果的に伸びていない面もある。
3.平成17年度の成果
(1)良質のアウトプットに繋がるグローバル教育―学校設定科目Global EducationIIのシラバスと指導方法の研究
2年次に学習したGlobal EducationIの延長線上で学習を深め、生徒各自が自らのテーマを発見・設定し、その課題について調査・分析を行ない、その結果を英語で発表したり、約2000語の論文として完成させることを目指すシラバスを開発し授業を行った。
11月までの成果としては、4名の教員がそれぞれ10名程度の少人数の生徒グループを担当し、調査・分析やエッセーを書く際に必要な個人指導を行うというチューター制がある程度機能することが担当教員の実感としてわかった。年度末までには、授業評価アンケート等を実施して、もう少し詳細なデータや生徒の声を集め、その結果を踏まえての報告を行いたいと考える。
(2)多量のインプットを得るための教科書の利用法―和訳先渡し方式を利用した教科書の新しい活用方法の研究
1・2年次に和訳先渡し方式の授業を積極的に取り入れたおかげで、3年次全てを余剰時間として活用することができた。時間にすると、4単位時間まるまるであるから、120時間に近い数値になると思われる。この時間を利用して、3年次前期(4~9月)だけでペーパーバック4冊を読むことができた。
(3)中学英語の完全マスターから高校英語へ―学校設定科目Power EnglishIVのシラバスと指導方法の研究
最終ゴールを「あるトピックについて150語程度の1つのパラグラフを書ける」としてシラバスを作成し、授業を行った。3年次前期(4~9月)に、パラグラフ・ライティングの指導に取り組んだ。指導テーマとして、とにかく生徒にたくさん書かせる、生徒の書いたパラグラフに見られるエラーを生徒自らに気付かせ、再び書かせる(修正・リライト)を掲げ授業作りに取り組んだ。
4~7月までの成果としては、以下の3つがあげられる。
- 大半の生徒が英文パラグラフの構成(導入→考察→結論)を意識しながら書けるようになった。
- 大半の生徒が20分程度で80~100語程度の1つの主題文を持つ1つのパラグラフを書けるようになった。
- アメリカやイギリスの社会・文化に親しむと同時に、日本社会・文化に目を向けることができた。
しかし、同時に課題も以下のように出て、その解決策も講じている段階である。
課題
- 余力が十分あるのに、簡単な内容で書き終える生徒がいる。
- 一応出席したら出席点がもらえるので、それに甘んじて積極的に取り組まない生徒がいる。
- 生徒が作文に取り組んでいる時、何か効果的なフィードバック方法・指導方法はないか。
- 担当者であるALTが変更になると、ALT教育のための時間が必要になる。
解決策
課題1.へ 8月から、作文を評価する方法を変更した。
課題2.へ 8月から、授業参加を評価する方法を変更した。
課題3.へ 8月以降は、生徒が作文を書いている時、書いている生徒の妨げにならない程度に積極的に机間巡視を行い、「いい表現」「共通のエラー」等をできるだけその場で発見し、その場で生徒に伝える方法を試みている。具体的には、机間巡視の際見つけた表現を静かに黒板に板書するという方法。生徒には、予め「チョークの音がしたら、時々黒板を見てみるように」と指示をしておく。
課題4.へ 指導方法に関する打ち合わせ、TTの実施、など。
(4)多読による個別学習プログラムの研究開発
平成17年6月から7月に、研究開発1・2年次に取り組んだ1年間の長期プログラムとは異なる、1ヶ月間の短期プログラムを実施した。その結果、わずか1ヶ月間で延べ1400の貸し出し数を記録した。この数値は、1・2年次の貸し出し数のほほ合計であった。したがって、1年という長期プログラムよりも短期プログラムのほうが多くの生徒を巻き込める可能性を見い出した。その要因としては、多くの生徒が「わずかな期間の特別な活動」という意識を持って積極的に取り組んだのではないかという生徒の心理面に影響を及ぼした可能性があると分析している。また、今回始めて「読んだ成果」としてわずかではあったが正式に学校を挙げて成績に加味するという取組(一定以上の冊数を読んだ生徒にプラス点を与える)を実施した。多読指導をこのように日々の成績に直接反映させる方法は、確かに賛否両論がある。実際に本校でも、どれだけ生徒が真剣に読んだかは不明だ、実際に読んでいないかもしれない、読後アンケートが簡単など、多数の意見が出された。しかし、これだけ生徒を巻き込むことができた主要な要因としては、やはり生徒の努力に報いた評価を出してあげるという教員からの信頼の姿勢があるのではないかと考える。
(5)生徒の英語力の変容(英語力測定データを中心にした報告)
研究開発の最終年を迎え、研究対象生徒も3年生になった。今後、平成17年11月にGTEC、12月にTOEICを受験することになっている。これら2つの試験で、リーディング・リスニング・ライティングの能力のスコアを測定し、これまでの本校の英語科卒業生のデータが残っているので、そのデータとの暦年比較を行なうことで研究対象生徒の英語力を検証する予定である。また、スピーキングの能力については、対象生徒が本校に入学して以来、本校独自のスピーキングテストを実施してきた。明らかな変容としては、Fluencyの面での能力の向上があげられる。1年次入学当初は、ほぼ全員が3分間英語で話し続けることはできなかったが、2年・3年と学年を積み重ねるにしたがい、その能力は確実に向上した。3年の7月実施分のテストでは、ほぼ全員が3分間英語を話し続けることが出きた。
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