指導変革の軌跡 栃木県立宇都宮白楊高校「進学実績向上」
栃木県立宇都宮白楊高校

栃木県立 宇都宮白楊(はくよう)高校

2006年に創立111周年を迎えた専門高校。「独立自尊・進取・堅忍不抜・協調・純真誠実」が校訓。学科ごとに特色ある教育を行い、資格取得指導にも力を入れる。

設立●1895(明治28)年

形態●全日制/農業経営科、生物工学科、食品科学科、農業工学科、情報技術科、流通経済科、服飾デザイン科/共学

生徒数(1学年)●約280名

06年度進路実績●国公立大には弘前大、宇都宮大、群馬大、岡山大に8名が合格。私立大には北里大、駒澤大、東京農業大、武蔵工業大など延べ58名が合格。その他、短大、専門学校、就職など。

住所●栃木県宇都宮市元今泉8-2-1

TEL●028-661-1525

WEB PAGE●http://www.utsunomiya
hakuyo-h.ed.jp/


柴田富男

▲栃木県立宇都宮白楊高校校長

柴田富男

Shibata Tomio

教職歴26年目。同校に赴任して2年目。「志を持って、自分の実力や個性を生かせる人材を育てたい」

太田敏雄

▲栃木県立宇都宮白楊高校

太田敏雄

Ota Toshio

教職歴30年目。同校に赴任して2年目。進路指導主事。「1日1日を真剣に過ごし、毎日を最高の日にしたい」

江連雅子

▲栃木県立宇都宮白楊高校

江連雅子

Ezure Masako

教職歴13年目。同校に赴任して7年目。進路指導部進学係長。「失敗をバネに自らを成長させられるよう育てたい」

大石務

▲栃木県立宇都宮白楊高校

大石務

Oishi Tsutomu

教職歴10年目。同校に赴任して4年目。進路指導部進学係。「本校を地域に認められる良い学校にしたい」


VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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指導変革の軌跡80


栃木県立 宇都宮白楊高校

4年制大進学を目指し、教師の意識改革、組織改編を行う

● 実践のポイント
進学支援のため、学科・学年横断型の教員組織にする
小論文指導、放課後補習など、課外学習の充実を図る
生活指導を徹底し、社会人としてのベースとなる力を涵養する

学科再編から15年 進学実績が低迷

 栃木県立宇都宮白楊高校が、大学進学実績の向上に向けた改革に取り組み始めたのは、2005年のこと。  91年4月、同校は農業高校から総合選択制の専門高校に再編された。総合選択制とは、生徒は特定の学科に所属しながら、ほかの学科の科目も履修できるシステムだ。当時、日本にそうした高校はほとんどなく、将来の目標に合わせて科目選択ができるとあって注目を集めた。意欲の高い生徒が入学するようになり、それまで1名程度だった国公立大合格者は、3年後には5名に増えた。
 しかし、一時の人気も薄れ、指導内容が前年度の踏襲となるにつれ、進学実績は徐々に落ち込んでいく。05年度入試では、国公立大合格者が1名となり、40~50名で推移してきた私立大合格者も40名を切った。
 しかし、そうした状況に危機感を抱く教師は少なかった。職業系専門高校は、農業、商業、工業、家庭、それぞれの分野の専門家の育成が第一の目的だ。大学進学にこだわる必要はない。大学進学希望者への指導は、進学に熱心な一部の教師たちによる個別対応となっていた。
 そうした同校に風穴を開けたのが、05年4月に赴任した柴田富男校長だ。生徒と教師に大学進学へと目を向けさせる改革に着手した。
 「大学で学ぶメリットの一つは、教員や学生との多くの出会いを通して、人脈が広がることです。将来、農業を営むにしても、職業人になるにしても、新たな事業に挑戦する上では、いろいろな分野の人の協力が必要です。また、全国から集まる学生のさまざまな価値観や考え方に触れることで、視野が広がります。生徒にはどんどん大学に進学してもらい、人生の幅を広げてほしかったのです」

ビジョンを示して教師の意識向上を図る

 柴田校長は赴任後すぐに教師全員と話し、まずは改革を進める上での課題を浮き彫りにした。
 「一番の課題は、学年間で進路指導方針が統一されていないことでした。進学指導に積極的な教師がいる学年といない学年とでは進学実績の差が顕著で、進学よりも専門知識や技術を重視する学年では、資格取得の実績は良好でも、進学実績は振るわないという状況でした」
 もう一つの課題は、学科間の壁だった。専門高校では学科ごとに教育目標が異なっており、それが生徒一人ひとりの学習活動から進路意識の形成にまで影響を与えていた。そうした各学科の方針がある中で、学校全体としての統一した進路指導体制をつくりづらい状況だった。
 「各科長は学科の教育を真剣に考え、農業の後継者や優れた職業人の育成に情熱を傾けています。そのため、資格取得や専門に関する特別指導が優先され、模試や補習には消極的だったのです」(柴田校長)
 柴田校長は事あるごとに、宇都宮白楊高校が進むべき方向を語り、ビジョンを浸透させていった。優れた職業人や農業人を育てることは確かに大切だ。しかし、たとえ良い作物を作っても、それを必要な人にきちんと供給できる仕組みまで考えられなければ、畑で腐らせることにもなってしまう。地域の産業を支え、将来の経済や文化を担う人材を育てるには、広い視野と哲学を持たせることが大切だ。学科の目標、本校の教育という枠を超えて、栃木県の実業教育、ひいては21世紀の地域社会を担う人材を育てるという視点で捉えてほしい……。こうした校長の呼びかけに応えるように、教師の進学に対する意識は徐々に高まっていった。

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