10代のための「学び」考
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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偶然の結果でも「なぜ」を追究

 ノーベル賞を頂いた研究は、簡単に言えば「電気を通すプラスチックの開発」です。それ以前は、プラスチックは電気を通さない物質とされ、電気を通す物質や電気を通すための方法が世界中で研究されていました。私はこれとは全く関係のない研究をしていたのですが、偶然の失敗から研究の糸口をつかんだのです。
 私が31歳、東京工業大で助手をしていたときのことです。韓国から来た研究生がポリアセチレンの作り方を体験したいというので、作り方のメモを渡しました。ほどなくして、研究生が「ポリアセチレンができません」と言うので実験室に行ってみると、確かに反応は起きていませんでした。しかし、フラスコをよく見ると黒い膜が表面にできていたのです。
 なぜ実験は失敗したのか、なぜ粉末の代わりに黒い膜ができたのかを調べるために、条件を変えて実験を繰り返した結果、いつもより1000倍も濃い触媒を使っていたことを突き止めました。常識外れに濃い触媒を使ったために、これまで粉末でしか得られなかったポリアセチレンが、銀色の光沢をもったフィルムとしてできたのです。金属のように見えたので、電気を通すのではないかと考えて実験してみましたが、だめでした。その後しばらくは、別な研究テーマに取り組んでいました。
 39歳のときに転機が訪れました。東京工業大に講演に来たアメリカのアラン・マクダイアミッド教授が銀色に輝くポリアセチレンフィルムに興味を持ち、アメリカに招待してくれたのです。私は二つ返事でアメリカに行き、物理学者のアラン・ヒーガー博士と3人で研究を始めました。3人は専門分野も国籍も違うためか、私1人ではできなかった実験がどんどん進みました。そして2か月もしないうちに、不純物を少し加えることで、ポリアセチレンフィルムに銅やアルミニウムに匹敵するほど電気を通すことに成功したのです。
 ポリアセチレンフィルムを作ってから9年が経っていました。その月日は長かったかもしれません。しかし、失敗実験だからといって捨ててしまわず、なぜ失敗したかを追究したことがきっかけで、新しい物質やプラスチックに電気を通す方法を、自分自身の手で作り出すことができました。「プラスチックに電気を通す」という予想外の研究成果は、目的とする研究以外にも気を配り、高校や大学で好きな化学以外の科目も勉強した結果だと思います。


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