インドでは、村落のあり方や家族関係、そしてカースト制度などを調査しました。結果的には政治情勢の関係でチベット行きはかなわなかったのですが、ヒマラヤをはじめインドでは3年間調査を続けました。
社会人類学は、国や社会、民族などの集団が機能するシステムを解明する学問です。「人間は皆同じ」という人もいますが、社会によってシステムや価値観は異なり、ある社会では一般的なことでも、ほかの社会の人から見たら不思議に思う行動は多々あります。その行動の背後にあるものは何かを調べ、「理論的にメカニズムとしてわかるようにする」ことが社会人類学の面白さなのです。
研究の基本は、「観察」と「比較」です。まず、動物を観察するように、人の行動も客観的に見ます。比較には少なくとも三つ以上が必要です。自分が属する集団との比較だけでは、主観が入りやすいからです。こうして、実際に調査をして論理的に説明できるようにし、更にほかの社会と比較して、特定の社会を浮かび上がらせていくのです。
私は、インドやイギリスでの調査・研究を背景として、日本社会の特色は何かを分析・考察しました。その一つの特色は、日本社会では「序列」という基準があらゆる人間関係に優先されがちであるということです。地位や年齢が上の人に対して礼儀を重んじることは、どの国にも見られる行動です。しかし、仕事や学問など実力がものをいう場面では、例えばインドの人は地位や年齢に関係なく、だれでも堂々と意見を述べています。一方、日本では、序列が上の人に対する反論は慎むのがよいとされています。つまり、インドはカースト制度による身分差があっても、場面に応じてほかの基準が機能する社会であり、日本は身分制度がなくても、常に序列意識が強く支配している社会といえるのです。
|