10代のための「学び」考
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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世界中の数学者が敬遠した難問に挑戦

 実は、大学に入学したころ、私は物理学者になりたいと考えていました。当時、京都大の湯川秀樹先生がノーベル物理学賞を受賞し、弟子になりたいと考えていたのです。しかし、物理学を勉強しているうちに、やはり自分には数学が合っていることがわかってきました。例えば、相対性理論の本を読んでいても、その中にある数学的な側面に強く惹かれるのです。
 大学3年生のころ、数学の道に進むことに決め、当時、これから発展しそうな予感がした「代数幾何」の分野に取り組むことにしました。中でも、私の興味を惹いたのが「特異点解消」の問題です。当時、この問題は世界的な数学者もさじを投げるほどの難問で、学会ではほとんど注目されていませんでした。私は、みんなが注目して競い合って解決しようとしている問題には興味がありません。しかも、難しい問題を時間をかけて考えるのが大好きだったので、この難問にじっくり取り組むことにしたのです。
 特異点とは、文字や記号、グラフなどの交点や先端のとがった部分をいいます。しかし、数学の世界では特異点があると計算が複雑になってしまうのです。これを解消するには、特異点を「特異点のないもの」の「陰」と考えます。例えば、高速道路の立体交差を思い浮かべてください。道に映った影は交わっていますが、実際の道路はぶつかりませんよね。平面の世界に「高さ」という新しい次元を加えることで、特異点をなくすことができるのです。この定理を使えば、現象が複雑で特異点の多いグラフも、単純なグラフの投影の組み合わせとして把握できるようになるのです。
 この考え方自体は既にありましたが、まだ証明されてはいませんでした。大学卒業後、私はこの定理の世界的権威であったザリスキー教授に師事するためハーバード大学に留学し、研究に没頭しました。そして33歳のとき、ついにこの定理を証明したのです。大学3年生のときにこの問題に出合ってから、10年以上の歳月が流れていました。


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