福岡県立東筑高校は、多くの卒業生が毎年国公立大に合格する北九州市屈指の進学校だ。生徒の学習意欲は高いが、現役志向が強く、ともすれば志望レベルを落としてでも、現役合格にこだわる傾向がある。また、各中学校でトップクラスだったために、少し成績が下がるとそれだけで気持ちが萎えてしまう生徒も多いという。もとより実力のある生徒だけに、どれだけ高い志望を持たせられるかということが、同校の進路指導の大きなテーマとなっている。
そのため、面談の場面では、生徒を激励する場面が多くなる。C判定などが出ると、すぐに志望を下げる生徒が多いが、「判定ですべてが決まるわけではない」と、過去の先輩のデータや経験などを紹介しながらよりレベルの高い大学へ挑戦させる。
もっとも、生徒の気持ちを奮い立たせるためには、過去に多くの受験生と対峙してきた経験が欠かせない。そうした経験を、担任経験が浅い教師にいかに伝えられるかが、指導の標準化、ノウハウの蓄積のポイントになる。赴任歴9年目の工藤宏敏先生も、赴任当初は前任校とのギャップに悩んだという。
「私は前任校も進学校だったので、赴任当初はそれほど生徒のレベルに差はないだろうと考えていました。しかし、実際の受験の場面になると、前任校だったら九州大に受からないだろうという生徒も、本校の場合は合格する。成績だけからは見えない地力の違いがあって、そのギャップに戸惑うことがありました」
そうしたギャップを解消する上で、大きな力になったのが教師同士の情報交換だった。「本校には、形式的な会議が少ない分、ざっくばらんに学年間で情報交換できる雰囲気があります。そういう場で、過去の経験を踏まえたアドバイスを頂いたり、教科担当としての意見を聞いたりする中で、徐々に本校の実情に応じた進路指導を実践できるようになりました」(工藤先生)
今年度、同校で初めて担任を持つ畑井雅明先生にとっても、ベテラン教師のアドバイスは進路指導の大きな指針になっている。2学期の文理選択では、畑井先生は数学が苦手という理由で文系を選択しようとする生徒に対して、ベテラン教師の体験を基に文系でも数学が必要なことを説き、将来の方向性から逆算して文理選択を行うよう指導した。
「私自身、高校時代に数学を避けて文系に進んだ経験がありました。今回、文理選択にあたって数学の先生に話をうかがい、学びの本質を表面的にしか捉えていなかったことを痛感しました。確かに、私立大受験のことだけを考えれば、数学は必要ないかもしれませんが、高校での学びは大学受験のためだけにあるわけではありません。『数学は将来社会で活躍するためにも必要な教科。大学卒業後の進路も見据えてしっかりと考えさせなさい』という指導方針を示していただき、生徒にも有意なアドバイスができました」
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