筑紫丘高校は、例年300名近くの国公立大合格者が輩出する県内屈指の進学校であり、他校で15年以上のキャリアを積んできた教師が多く赴任する。個々が高い指導力を持つが、前任校と同校では、生徒の学力レベルに差のある場合が少なくない。
こうしたギャップは、通常、授業をしながら生徒の気質や学力を把握して埋めていくが、同校ではできるだけ早く「筑紫丘の指導」に慣れてもらうために、毎年6、10月に行う「研究授業」を活用する。研究授業は全教科で行われるが、国語科ではその年に赴任した教師に担当してもらうようにしている。3学年主任の佐々木英治先生は次のように話す。
「生徒が評論文などの難しい文章を読めるようになるにはある程度教え込む指導も必要ですが、教え込むと生徒の意欲を削ぐことがあります。本校の生徒は総じてモチベーションが高いので、難解なテキストを読み取る醍醐味を味わい、生徒が考える機会を多く設ける、といった指導が求められます。本校にふさわしい指導ができるよう指導のレベルを高めていくのが、研究授業の役割です」
国語科の教師全員で転任者の授業を参観し、検討会で気づいた点や注意すべきポイントを指摘し合う。その上で、実際の授業を通して生徒の学力や気質を肌で感じ取り、同校の生徒に合った指導を模索していく。
校内模試や定期考査の作問検討会も、転任してきた教師が「筑紫丘の指導」をつかむ絶好の場だ。校内模試は国語科全員で試験の1か月前に数日間かけて、定期考査は学年ごとに、作問検討会を開く。大問ごとに設問担当者を割り振っているが、その問題・解答の妥当性や客観性について検討する。ほかの教師の指摘からレベルの設定について把握し、自校の生徒の力を測るのに適した作問の方法を体得していく。
ときには作品の解釈について熱く議論することもある。進路指導主事の和田美千代先生は次のように話す。
「3年次2学期の中間考査で森鴎外の『舞姫』を出題しました。検討会では、主人公の豊太郎はいつ日本への帰国を決意したのか、家庭生活だけでは満たされない自己実現の欲求があったのではないかといったテーマで考えを述べ合いました。こうした議論を通して、私たち自身の読みも深くなり、作問レベルだけでなく、それが授業の質を高めることにもつながるのだと思います」
「作品には毎回新たな発見がある」と、3学年担任の新谷勉先生は次のように話す。
「私たちが作品を楽しめば、授業を通して生徒に読みの奥深さを伝えることにつながります。『舞姫』についても、私が20代のころと比べ解釈が深くなっていることに気づきました。生徒にも10年後、20年後に高校で扱った作品に再び触れてほしいと常々話しています」
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