特集 組織の中で伸ばす教科指導力

大脇康弘

▲大脇康弘

Owaki Yasuhiro
大阪教育大教育学部教授
専門は教育経営学・学校教育学。編著書に『学校を変える 授業を創る』『学校評価を共に創る』(共に学事出版)など。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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【寄稿】

大阪教育大教育学部教授 大脇康弘

組織の中で教科指導力を高めるポイント

組織の中で教科指導力を高めるためには、どのような視点が必要だろうか。
大阪府、神戸市、山形県などで高校教育改革に参画しながら
教育経営の研究を進める大阪教育大の大脇康弘教授にうかがった。

「開かれた専門性」へ転換

 生徒が教師の授業を評価する、校長が教員評価の一環として授業を見学するといったことが一般化しつつあり、教師の専門性が侵されることを危惧する教師は少なくありません。しかし、学校の自律化政策の下で学校のビジョン形成とアカウンタビリティ遂行が必要不可欠となっている今、教師自身も「閉じられた専門性」を「開かれた専門性」へと転換すべきではないでしょうか。教師のプロフェッショナルな取り組みや成果を発信して、課題にどのように取り組んでいるのかを関係者に示し、理解を得ていくことが大切です。
 高校は学年・教科単位で運営され、共通の方針や枠組みはあっても、統一的な取り組みが弱い場合が多いようです。学年・教科単位の取り組みは、指導方針や授業進度の調整、テストの作問などが中心であり、授業そのものを相互に検討する機会は、研究授業や授業公開以外にほとんどありません。ですから、教師が相互に学び合って教科指導力を高める機会をつくることが重要な課題なのです。

個々の問題意識を大切に取り組む

 今回紹介された3校はいずれも伝統校・進学校ですが、教科単位で学年を越えて検討し、質の高い指導をしています。旭川北高校は研究指定を機に英語科全体で「指導マニュアル」を作成して指導の標準化を進め、武生高校は数学科が学年を越えて授業を受け持つ方式を構築し、日常的に授業を見学し合っています。筑紫丘高校の国語科は、研究授業や作問検討会で生徒に合った指導を検討しています。各校は、自校の指導方針や課題を踏まえ、教科会として指導の在り方を検討する方策を構築しました。教師相互の学びを継続的に積み上げていくマネジメントが教科主任を軸に行われているのでしょう。
 多くの高校では、校内の取りまとめだけでも大変で、教科単位で検討会を組織することは容易ではありません。そこで、個々の問題意識や実践課題を大切にしながら授業を集団的に検討することを提案します。
 第一のポイントは、個人と組織の関係づくりです。学年、教科、学校全体という公的な単位での取り組みに縛られる必要はありません。少数の有志が集まって始めてもよいですし、参画しやすいプロジェクト方式で行ってもよいでしょう。
 第二に、授業検討を行う視点・基準を明らかにして、深化させることが大切です。授業の狙いなどに焦点を絞るとよいでしょう。
 第三に、統一テーマを設定して分節化するよりも、個々の問題意識をつなぐ共通の枠組みを用意する「課題生成型」が効果的です。例えば、「読解力の向上」という枠組みをつくり、その中で各教科の教師がそれぞれの問題意識に応じた指導課題を設定し、解決案を研究するのです。「授業で図表・データの読解力を高めるには」(理科・地歴公民)、「授業で評論の読解力を高める方策」(国語)といったそれぞれの問題意識を大切にしながら「読解力の向上」に向けた「授業研究」を統合化していく方法です。そうすることで、教科の枠を越えた学び合いも可能になると思います。


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