未来をつくる大学の研究室 運動生理学
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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研究テーマと業績
脳の認知力を高める最適な運動強度を解明する

 私は脳の働きに着目し、長年、運動能力の解明を進めてきました。最近、研究していることをお話します。
 運動は脳の機能を活発化させることが知られています。しかし、どの程度の強さの運動が脳の認知能力に最良の影響を及ぼすのかはわかっていませんでした。そこで被験者にさまざまな条件下で運動をしてもらい、脳の動きを測定し、オッドボール課題(※2)で認知能力の変化を調べました。
 その結果、被験者の最大酸素摂取量の60%程度の運動を30分間続けると、脳内にβ-エンドルフィン(※3)という物質が大量に分泌されて快感を覚え、運動後には見たり聞いたりする能力が最も高まることがわかりました。一般成人であれば、ごく軽いジョギングや、円陣を組んでバレーボールのトスを回すのと同程度の運動です。

写真

  一方、60%よりも強度が弱まると認知機能には変化が表れなくなり、逆に強度が強まるにつれ悪影響が生じる傾向がありました。こうした結果から、認知能力を引き出すには適度な運動にとどめる方が効果的だということがわかります。しかし、日常的に激しいトレーニングをしているアスリート等には別の結果が表れることも考えられますから、更に研究を続けるつもりです。
 この結果は、学校生活での毎朝の体操やぞうきんがけなどの運動が、学習の効率を向上させる可能性があることを示唆しています。また、リハビリテーションをはじめとした医療現場で用いられる運動プログラムを作成する上でも、大いに参考になるでしょう。

写真1
写真1 運動しているときの、いろいろな部位の筋肉がどのような状態になっているのかを測る。
用語解説
※2 オッドボール課題 脳の認知力を測定するテスト。例えば、同じ四角形の画像を連続して表示する合間に、ときどき丸形の画像を表示。被験者は丸形が表われたときだけボタンを押すという方法で視覚的な反応力を測定する。
※3 β-エンドルフィン 脳内で分泌される神経伝達物質の一つ。運動時などに分泌され、幸福感をもたらすと共に苦痛を和らげ、ストレス解消に効果があるとされる。

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