特集 生徒の未来、教師の役割
荒瀬克己

荒瀬克己

Arase Katsumi
1953年京都府生まれ。京都市立堀川高校校長。京都教育大卒業後、京都市立伏見工業高校教諭、京都市教育委員会指導主事等を経て、03年から現職。98年度に教頭として堀川高校に赴任し、同校の改革に着手。05年度から中教審教育課程部会委員として、学習指導要領の改訂に携わる。また、中教審大学分科会「高等学校と大学との接続に関するワーキンググループ」委員なども務める。著書に『奇跡と呼ばれた学校』(朝日新聞社)がある。

*プロフィールは取材時(08年3月)のものです


VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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【今後の視点】

指導と評価を一体化させ生徒一人ひとりに応じた学びの提供を

京都市立堀川高校校長 荒瀬克己 Arase Katsumi

高校を取り巻く環境が変化している中、高校教育に求められる視点と、教師が変わらずに持つべき「不易」とは何か。中教審教育課程部会の委員でもある京都市立堀川高校の荒瀬克己校長にうかがった。

「個に応じた指導」により高校教育の質を高める

 学士課程教育の質を保証するための一環として、「入試」という大学への入り口の問題が議論されています。中央教育審議会(以下、中教審)大学分科会のワーキンググループでは、大学が高校生の学力を把握する方法の一つとして「高大接続テスト(仮称)」の導入が検討されています。それに対して、「学科試験を課さない推薦入試やAO入試を行い、学力を問わない入学システムをつくっている大学側に問題がある」という指摘があります。そのために高校生が学習しなくなった、というものです。一方で、高校教育の質を問う声もあります。
 確かに高校から大学への接続の部分だけを見ると、入試の在り方をどうするのかという話になりますが、むしろこのことを我が国の学校教育の問題、次代を担う若者の学力の問題として捉えることが重要であると思います。その意味で、大学入試の改善を求めると共に、高校を卒業する段階で、すべての生徒に一定の学力が備わっているように教育することが必要です。
 それを確かめるための方策の一つとして、学科試験や調査書、資格・検定試験の成績などのほかに、客観的な学習歴の確認方法として「高大接続テスト」が実施されるのであれば、私は賛成です。テストの内容やセンター試験との兼ね合い、実施時期や回数など課題は多くありますが、生徒に学力をつけるという点で、検討に値するものだと思います。
 もちろん学力には知的側面のほかに、精神的側面や身体的側面がありますから、「高大接続テスト」を高校卒業の要件として用いることにはなりません。卒業認定は、総合的な評価に基づいて行われるべきものです。しかし、そうであっても、大学入学後の学習を円滑かつ有意義に進めることができるよう、その土台となる高校段階までの学力を生徒にしっかり身につけさせることも、高校の責任であることは言うまでもありません。
 大切なのは生徒一人ひとりが高校での学びを通してどのような力をどれだけ身につけたのか、ということでしょう。
 本来、高校は、義務教育の成果を更に発展させて、生徒の豊かな人間性を養い、社会の形成者としての必要な資質を伸長する場です。ただ、これまで大学入試に強い影響を受けて、その役割を十分に発揮できなかった面があります。大学入試に左右される高校教育を見直し、どのような学力をどのようにして育むのかという点を明らかにして、「個に応じた指導」を図ることが必要です。このことが、高校教育の質の保証につながるのではないでしょうか。


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