神経発生学とは無縁に思われるかもしれませんが、私は大学では歯学を専攻していました。周囲の学生が歯科医を目指す中で、私が興味を持ったのが「人の顔はどのように発生し、形成されていくか」というテーマでした。
顔はどのようなプロセスでつくられるか知っていますか。初期の胎児はのっぺらぼうで、顔がありません。だんだんとくぼみができて目や鼻になり、次第に顔が整っていきます。そのプロセスの大半は、遺伝子のプログラム通りに進むと考えられています。
ところが、プログラムの異常が原因と考えられる症状が存在します。その一つが、唇の一部が裂けた状態で生まれる口唇口蓋裂(※4)(こうしんこうがいれつ)という先天的な症状です。この症状は歯科にも関係が深く、顔全体の形成にかかわる遺伝子のメカニズムを解明し、原因や予防法を探るのが、私の研究でした。ただ、この研究は神経発生学とのかかわりは深いのですが、厳密にいえば、その領域からは少しずれています。 |