未来をつくる大学の研究室 神経発生学
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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 もちろん、ラットの症状がそのまま人間に当てはまるわけではありません。精神疾患は、心理的な状態や周囲の環境なども大きな要因と考えられます。しかし、これまでの研究では、遺伝子変異が精神疾患の下地になっていることを示唆する結果が出ているのも事実です。遺伝子変異と精神疾患の関係が解明されれば、精神疾患の治療薬や予防のためのサプリメントの開発などに貢献できる可能性があります。
 脳の仕組みや働きを遺伝子レベルで解き明かす研究は、「心」の問題へのアプローチにほかなりません。実際、研究内容について話をしていたのに、いつの間にか哲学的なテーマになっていることがよくあります。「私は、どうしてここにいるのか」「昨日の私と今日の私が同じ私と思えるのはなぜか」など、これまでは哲学者や心理学者が挑んでいたテーマを、科学的手法で解明し、物質的な根拠を示す。そのような試みは、今後もっと増えていくでしょう。それだけに、理系に限らず、哲学や言語学に関心の高い人にとっても、神経発生学は魅力的な学問と感じてもらえるに違いありません。

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高校生へのメッセージ
苦手分野があってもほかでカバーできる
 科学者を目指すには、高校時代に何を勉強しておくべきか。数学や理科はもちろん、論文を書く機会が多いので国語も大切ですし、外国の研究者と話すためには英語も欠かせません。つまり総合力の勝負なのです。数学が苦手なら、ほかでカバーすればよい。どのような仕事でも自分の得意分野を生かす道はあります。特定の科目が苦手だからといって、早いうちから将来の道を狭めて考えないでください。職種を限らず、だれとでも気さくに話せる力はとても役立ちます。ほかの世代の人と交流する機会を持つとよいでしょう。
高校生にお薦め入門書
『心の輪郭―比較認知科学から見た知性の進化』 (川合伸幸著/北大路書房)
◎「心」は心理学や哲学の領域でしたが、今はさまざまな科学が謎を解き明かそうと試みています。本書でも心理学の領域を越えた科学的手法により、動物の行動を解析して人間と比較し、「知性」とは何かを浮かび上がらせています。
『心を生みだす遺伝子』 (ゲアリー・マーカス著/大隅典子訳/岩波書店)
◎遺伝子は、脳が形成される過程にどのようにかかわっているのか。この解明は人間の「心」を理解する上で重要な鍵となります。言語学者が、この問題に関する研究成果を明快に語った一冊。

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