もちろん、ラットの症状がそのまま人間に当てはまるわけではありません。精神疾患は、心理的な状態や周囲の環境なども大きな要因と考えられます。しかし、これまでの研究では、遺伝子変異が精神疾患の下地になっていることを示唆する結果が出ているのも事実です。遺伝子変異と精神疾患の関係が解明されれば、精神疾患の治療薬や予防のためのサプリメントの開発などに貢献できる可能性があります。
脳の仕組みや働きを遺伝子レベルで解き明かす研究は、「心」の問題へのアプローチにほかなりません。実際、研究内容について話をしていたのに、いつの間にか哲学的なテーマになっていることがよくあります。「私は、どうしてここにいるのか」「昨日の私と今日の私が同じ私と思えるのはなぜか」など、これまでは哲学者や心理学者が挑んでいたテーマを、科学的手法で解明し、物質的な根拠を示す。そのような試みは、今後もっと増えていくでしょう。それだけに、理系に限らず、哲学や言語学に関心の高い人にとっても、神経発生学は魅力的な学問と感じてもらえるに違いありません。 |