指導変革の軌跡 長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校
長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校

長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校

◎1880年、旧平戸藩主松浦詮が設立した私塾猶興書院が起源。1953年に現在の校名とした。2003年に理系学部進学を希望する生徒を対象とした理数科を設置。「自立・自発」の猶興精神のもと、文武両道を目指し、生活面・学習面だけでなく、部活動の指導にも力を入れ、バランスの良い生徒の育成を目指す。

設立●1880(明治13)年

形態●全日制/普通科・理数科/共学

生徒数(1学年)●約200名

07年度進路実績●国公立大では、九州大や神戸大、広島大、大阪府立大など74名が合格。私立大では、福岡大医学部や東京理科大、西南学院大など、延べ80名が合格。

住所●〒859-5121 長崎県平戸市岩の上町1443

TEL●0950-22-3117


山崎幸則

▲長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校

山崎幸則

Yamasaki Yukinori
教職歴11年。同校に赴任して6年目。進路指導主事。「厳しさの中にも愛情の溢れる教育を忘れないようにしたい」

堀 光

▲長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校

堀 光

Hori Hikaru
教職歴11年。同校に赴任して8年目。3学年主任。「本気で叱っても、教師と生徒が笑って話せる雰囲気をつくりたい」現・長崎県立長崎西高校。

満行洋介

▲長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校

満行洋介

Mitsuyuki Yosuke
教職歴20年。同校に赴任して10年目。教務主任。「地域から信頼され、安心して子どもを預けられる学校をつくりたい」現・長崎県立長崎東高校。

西川周二

▲長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校

西川周二

Nishikawa Shuji
教職歴12年。同校に赴任して4年目。理数科主任。「素直で謙虚で人の話を最後まで聴ける生徒が最も伸びる。そのような生徒を育て続けたい」

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指導変革の軌跡104


長崎県立猶興館(ゆうこうかん)高校「推薦入試対策指導の確立」

「推薦入試」という目標に向かって教師と生徒が一つになった

● 実践のポイント
教師の負担を軽減するため、学校全体で指導を分担
目標は面接ビデオで共有し、指導方法は教師に任せる
教師の意識向上をねらい、推薦指導検討会を夏に実施

地域の信頼を得るために推薦入試重視の指導へ

  「猶興館に入学して、大学進学は大丈夫なのだろうか―」
 約10年前、猶興館高校の教師は、地域住民の学校に対する評価に危機感を募らせていた。同校の進学実績が低迷する中、学校のある平戸市内に大手予備校や塾がほとんどないことから、成績上位層の生徒が隣接する佐世保市や長崎市の高校に進学する傾向にあったからだ。教務主任の満行(みつゆき)洋介先生は当時を次のように振り返る。
 「国公立大を中心とした進学支援の強化を検討しましたが、一部の成績上位の生徒を除き、センター試験でバランスよく得点できる学力のある生徒が少なくなり、一般入試で国公立大を狙うのは難しい状況でした」
 そこで、同校が打ち出したのは、推薦入試の積極的な受験だ。3学年主任の堀光先生は、その理由を次のように話す。
 「一般入試に合格できる総合力を育てることが理想ですが、現実的に難しい生徒が多くいました。ただ、苦手科目があっても、大学で学びたいという意欲の強い生徒には、大学で自主的に学びを深められる潜在的な力が備わっています。『総合力をつけさせるのが本筋ではないか』という声もありましたが、生徒の可能性を広げるために推薦入試重視の指導を始めたのです」

推薦入試対策の中心は担任の面接指導

 2000年度、同校は文系・理系各1の進学クラスを対象として推薦入試対策を始めた。最も力を注いだのは面接指導だ。担任とのマンツーマン指導で、礼儀作法や話し方、本番で想定される設問の受け答えを繰り返し練習した。志望理由書は、何度も書き直しをさせた。
 指導の方針について、堀先生は「生徒と膝を突き合わせて話し合うことによって、生徒に考えを深めさせ、読む者がハッとさせられるようなオリジナリティーのある言葉を引き出していくように心がけました」と話す。
 指導強化の結果はすぐに表れた。推薦入試の出願者が増えた影響により、01年度の国公立大合格者数は00年度の49名から66名へと大幅に増えた(図1)。卒業生に占める国公立大合格者の割合も、約16%から約22%に上昇した。

図1

 ところが、次第にさまざまな課題が見えてきた。最も大きな課題は、担任の負担だった。面接指導では、副担任の協力があったものの、基本的には担任1人でクラス全員を担当していた。対話を繰り返す指導を心がけていただけに、生徒一人ひとりに費やす時間や労力は大きかった。更に、担任が専門外の教科についても指導しなければならず、必ずしも十分な指導ができているとはいえないという課題もあった。
 「志望理由や大学で学ぶ内容については、学部や学科を理解していなければ、深く話すことができません。自分の教科の専門外の分野に関する本を読むなど、各自勉強してから指導していました」(堀先生)
 担任の熱意や能力によって、年度ごとに進学実績のバラツキが見られたこともあり、02年度からは数名の教師で指導を分担するようにした。しかし、この段階では、個人的に親しい教師に頼んだり、担任経験者が自ら協力を申し出たりするなど、あくまでも任意のものであって、根本的な解決には至っていなかった。


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