指導の分担による成果の一つは、「校内に一体感が生まれたこと」だ。以前は、入試結果に関心を示すのは3年生担任と一部の教師に限られていた。それが今では、教師全員が進路指導について当事者意識を持つようになり、職員室の雰囲気はがらりと変わった。
「進路指導主事や学年主任が『生徒が合格したのは先生の指導のおかげです』と、教師一人ひとりに言葉をかけることがよくあります。これは若手教師にとって非常に嬉しいことですし、自信にもつながります。そうしたムードが学校全体の士気を高め、指導が更に充実するという好循環が生まれています」(満行先生)
一方、生徒には「学校全体で面倒を見てくれている」という意識が芽生え、より真剣に学習に取り組む姿が見られるようになった。受験に取り組むクラスの雰囲気を壊さないようにと、推薦入試に合格した生徒もまじめに授業を受ける。中には、自主的にセンター試験を受験する生徒もいる。1、2年生には、「日々の授業をしっかり受けないと、先輩のように先生からの指導を受けられない」という雰囲気が広がり、授業への取り組み方が変わったという。「教師も努力していることを、生徒は感じてくれているのでしょう」と、堀先生は嬉しそうに話す。
大学への提出書類の対策にも着手した。推薦書や志望理由書は、過去5年分を製本して教師全員に配付。いろいろな書式を参考にしてもらうためだ。「書類作成が容易になり、生徒と対話する指導に時間を割けるようになりました」と、満行先生はその効果を実感している。
推薦入試の対策では、面接や小論文の出題傾向の見極めも重要なポイントだ。その点、各大学の出題内容や判定基準に関する分析が蓄積されているのは同校の強みとなっている。山崎先生は次のように話す。
「推薦入試の場合、ある生徒が合格した、あるいは不合格だった理由は、教師個人の経験に頼る部分があります。全員で対策に取り組むようになってから、若手教師がベテラン教師に気軽にアドバイスを求められるような雰囲気が生まれました。こうしたコミュニケーションによりノウハウを継承したいと考えています」
07年度の夏には、教師の推薦入試への意識を高めるための新しい取り組みを始めた。3年生の各担任に、夏の段階で、「どの生徒を推薦するか」をリストアップしてもらい、学年で共有する検討会を実施したのだ。
「前年度も3年生の指導を経験した担任は、夏の段階で、どの生徒をどの大学に推薦するか、理由も明確になっています。ほかの教師にその様子を見せることで、意識を喚起できるのではないかと考えました。検討会のあとは、今年度の担任が前年度の担任に、推薦指導について尋ねる光景も多く見られ、ねらい通りでした」 |