東京大、京都大合格者が出たことで、地域が活気づくと同時に学校内に二つの変化があった。
一つは、生徒の意欲の向上だ。同校の生徒の間には今、「先輩たちができるのなら、自分もやればできるのでは」という前向きな意識が強く芽生えてきている。
「教師にさせられているという感覚では、成果は出ないでしょう。逆に、生徒と一緒に学んでいく、生徒と一緒にいると楽しいという雰囲気は、塾などがなく、生徒との距離が近い本校のような地方の高校の方が、都市部の高校よりつくりやすいはずです」(寒河江先生)
もう一つの変化は、教師の自信の高まりだ。地元久慈市出身の中田先生は、近所の人から「ニュースを見たよ、すごいね」と声をかけられた。佐藤先生は、柔道の元オリンピック代表の同校OBから「誇りに思う」と言われた。後輩や地域を勇気づけただけではない。教師自身にとっての自信にもなった。
「1年間、日々、東京大・京都大の入試問題に向き合い、それを意識して指導したというのは初めてでした。今後、同じ思いでこの経験ができるかどうかわからないというくらい、私自身、教師として成長し、充実した1年でした」(中田先生)
東京大・京都大に合格した生徒はいずれも、私立大は1校も受けなかった。生徒のそうした高い志を支えたのも、教師たちの自信の高まりだ。 「合格実績を上積みさせるつもりは全くありませんでした。私立大を受けるエネルギーを、個別学力試験対策に使わせたかったからです。生徒に『私立を受けなくても大丈夫』と言いきれたのは、校長や副校長のあと押しがあったからです。それが自分の自信にもつながりました」(竿代先生)
県教委の振興策と、現場教師の「地域のため」という心意気の一致。そして、両者をつなぐ管理職のノウハウ。これらが み合って、「目玉づくり」による学校の活性化は短期間で成果を上げた。ただ、寒河江先生は「地域の活性化を考えると、国公立大の合格者数をもっと増やしたい。それに目玉がつけば最高でしょう」と、満足はしていない。
「今年は4月1日を登校日にしました」と上原校長。「能力無限!」「おそるべし、久慈高生の潜在能力!」と上原校長の投げかける言葉に、今年もまた、生徒も教師も熱くなる。
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