指導変革の軌跡 奈良県・私立橿原学院高校
VIEW21[高校版] 新しい進路意識向上のパートナー
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担任との連携により多面的な指導を実現

 ただ、指導の中心は担任であり、チューターはあくまでサブだ。学習の悩みや進路選択にかかわる話があったら直ちに担任と共有し、生徒の多面的な把握に役立てる。
 木村先生は、「チューターが深い話にまで立ち入るのは、担任から依頼があったとき、あるいは生徒の様子が普段と違うようなときだけです。担任の役割や立場もあるので、あまり出しゃばりすぎないよう心がけています」と話す。
 しかし、担任と合わない生徒や、話の内容によっては担任に話しにくい場合もある。チューターとの連携によって、担任だけでは解決が難しい課題にあたることも多い。特進コース主任の上田修平先生は、チューターの役割の一つについて次のように話す。
 「自信がないために、力がありながら安易な選択をする生徒は多くいます。逆に担任の前では意地になって、非現実的な志望にこだわる生徒もいます。担任だけでは手に負えないと感じたときは、チューターから話してもらうよう担任が依頼し、よりよい志望校選択へ導くようにしています」
 生徒と適度な距離を保ちつつ、いかに担任と連携するのかが、チューターの腕の見せどころといえそうだ。
 若手教師の育成という面でも、チューター制の利点は大きい。チューター制は、教師と生徒の距離を縮められる半面、馴れ合いの関係に陥りやすい。特に若手教師の場合は、選んでもらった嬉しさや気安さもあって、友だち関係のようになることもある。
 中でも問題なのは、生徒の言葉遣いの乱れだ。職員室などで若手教師が指導している場面をベテラン教師はさりげなく見ながら、注意すべき点があれば、雑談交じりに「あれは教わる側の態度ではない」などと注意を促す。なるべく教師本人から生徒に注意させるようアドバイスしている。「何事においても節度を守ることが大切。それが気持ちの切り替えにつながり、よい結果を生むのです」と、松下先生は強調する。

「自信を与える指導」が生徒を自立へと導く

 同校では「自信を与える指導」によって、学校全体が抱える構造的な課題にも向き合う。同校の成績層は偏差値33~50と幅広く、特進コースでも半数以上が公立校との併願で入学する。入学当初は自分に自信がなく、殻を破れない生徒も多い。
 進学コースで1年生から国数英の早朝テストを実施しているのも、単に単語や漢字、公式を覚えさせるためだけではなく、課題をクリアすることで得られる達成感、そこから生まれる自信を大切にしているからだ。テストは生徒の実力よりも高めのレベルでつくり、努力すればできることを実感させるようにしている。1回で合格した場合は教室の後ろに掲示した名簿にシールを貼り、達成度が目に見えるようにする。
 「最終的に希望進路を実現するのは、こつこつと実績を積み上げて自信をつけた生徒です。経験を通して得た自信が、最後まで妥協せず目標に向けて努力する気持ちを生みます。『自立した生徒』とは、このように自信を持って、自分自身の進路を切り開く生徒をいうのではないでしょうか」(松下先生)
 「自信を与える指導」は、担任とチューターとの連携によって、より効果を発揮する場合も多いという。
 「国公立大の理系学部を目指していた生徒が、国語の成績で伸び悩んだために自信を失い、理系教科まで成績を下げたことがありました。模試で現代文の成績が上がったのを見て、チューターの先生が褒めたところ、生徒は自信を取り戻し、理系の成績も再び上向き始めました。成績のわずかな変化も見逃さず、褒めたり励ましたりすることで、自分の実力に自信が持てるようになるのです」(上田先生)
 「自信を与える指導」を徹底した結果、生徒に粘り強さが見られるようになり、3月末まで受験する生徒も増えたという。現役進学率96.8%という実績が、それを端的に示している。

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