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VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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「主体は人間である」という基本理念

 現在、日本には盲導犬に関係する団体が9団体ある。歴史的には「アイメイト協会」が最も古く、協会がこれまでに育ててきた盲導犬は、1000頭を超える。「アイメイト」とは、アイメイト協会で育成された盲導犬に対する協会独自の呼び方で、「私の愛する目の仲間」を意味する。
 協会にとって重要課題の一つは、歩行指導員の養成である。指導員の仕事は、大きく二つある。盲導犬の候補犬ラブラドール・レトリーバーに基礎訓練、誘導訓練を施し、「アイメイト」に育て上げること。そして、視覚障害者に「アイメイト」を使って歩行する技術を指導することだ。
 塩屋隆男理事長は、歩行指導員を目指す見習生に常にこう話しかけているという。「ここでは犬の訓練もしています。しかし、メインの仕事はその先にある。『自分で歩く』という視覚障害者の意欲をバックアップすることです。人との付き合いが苦手なので、好きな犬の世話をしたいという人もいますが、この仕事ほど人と濃密に向き合う仕事はない。まずそれを理解しないと、歩行指導員は務まりません」
 協会の建物には、点字ブロックや点字プレートなど視覚障害者の歩行を手助けする設備が一切ない。ここには「アイメイト協会」の理念が込められている。
 「視力はなくても、自分でできることは自分でする。人の助けを受ける立場からむしろ『与える立場』に変わることが大事です。視覚障害者が、依頼心を捨てて、自主独立の精神で社会参加する気持ちが大切であり、私たちはそのお手伝いをしているのです」と、塩屋理事長はいう。
 点字ブロックや点字プレートが必要な場所もある。だが、それ以外のところでは、そうした設備に頼らなくても、視覚障害者が盲導犬といっしょにどこでも自由に外出できるようにする。「アイメイト」を連れている時、晴眼者の手を借りず、白杖も使わないのは、「自分で歩く」という視覚障害者の意思を大事にしているからだ。
 「主体は人間」の考え方は、歩行指導員の養成にも反映される。「盲人にできないことにだけ手を貸す」との方針で、視覚障害者が普通の人と同じ生活が送れるように助言をすることを要求するのだ。それは歩行姿勢から言葉遣い、ナイフやフォークの使い方、食事の仕方など日常生活の態度にまで及ぶ。指導する側も視覚障害者と「1人の自立した人間」として対応するのである。
 現在、研修生は6人。全員女性で、皆20歳から22、23歳と若く、大学を出てこの仕事を選んだ者もいる。視覚障害者の自立を支援するために、若者に求められるハードルは極めて高い。

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