特集 つなぐ教師の教科指導力
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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ハートの実現にはスキルが不可欠

 ここまでの話は、「公民の授業を通して、こんな生徒を育てたい」という、私のハート(思い)にあたります。教師には、なぜそれを教えたいのか、伝えたいのかという「熱い心」(ハート)と、それを伝えるための十分練られた「技術・方法」(スキル)が必要です。例えば、考える力や表現する力の育成には、スピーチやグループ討論、小論文作成などを授業に効果的に盛り込むことが重要ですが、生徒にいきなり「話す」「書く」を求めてもできません。
 スピーチを例にしていうと、私は、最初の授業でスピーチの仕方を指導し、2回目の授業で8人くらいの生徒に自由なテーマでスピーチをしてもらいます。このとき、大切にしているのは、生徒それぞれの長所に目を向けて、一人ひとりのスピーチを徹底的に褒めることです。褒めることによって、話すことに対する生徒の心理的ハードルを下げ、また、その授業が一方通行なものでないことを伝えます。こうして、3回目以降の授業では、毎回2人ずつスピーチをさせています。
 スピーチやグループ討論というと、「生徒に一定の力がないと成立しない」と考えがちです。けれども、これは教師の言いわけではないでしょうか。事実、私は学力的に厳しい高校に勤務していたときにも、このスピーチを行っていました。
 もちろん、工夫は必要です。例えば、ある社会問題について討論するのなら、まず生徒全員に賛成・反対などの意見を小さい紙に書いてもらい、それらの紙を整理して模造紙に貼らせてから討論させています。そうすれば、生徒は、模造紙に書かれた意見を参考にしながら、自分の意見を改めて考えた上で、話したり、発表したりできるのです。
 このように、スピーチやグループ討論を意義のある活動にするためには、教師に細かな工夫が不可欠なのです。
 多面的・客観的な見方の育成のためには、できるだけ多様な資料を生徒に提示しています。戦争をテーマにした授業では、原爆投下問題をアメリカ側と日本側の双方の立場から考えさせる視聴覚教材を見せます。あるいは太平洋戦争を、加害者の立場と被害者の立場の両方の視点から考えさせる資料を配付します。
 事実を多面的かつ客観的に捉えた上で、自分なりの意見を形成できる生徒を育てたいのです。ここでも、生徒の思考を揺さぶったり、新しい視点を生徒に見せたりといったスキルが、教師には求められます。
 授業で使う資料や視聴覚教材の準備にはかなりの時間を割きます。授業時間内に報道番組を見せたあと、討論の時間を確保しようと思ったら、番組の編集作業が必要となります。苦労が多くても、生徒が強い関心を示し、あとの討論が盛り上がったときは、やはり嬉しいものですね。
 国公立大の個別学力試験では、公民だけでなく、国語や英語などの教科でも、「社会に対するものの見方」や「自分なりの考え方」が問われる問題が多くなりました。生徒には「これは受験対策にもなる」と話しながら取り組ませています。

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