指導変革の軌跡 三重県立朝明(あさけ)高校
VIEW21[高校版] 新しい進路意識向上のパートナー
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企業との連携で早期離職の減少を目指す

 同校は次に卒業後の早期離職の対策に乗り出した。ある年、食品会社に入社した卒業生が、わずか数日で会社を辞めた。鈴木先生が理由を聞くと、「わさびが目に染みるから」と答えた。その会社では新入社員は目に染みないようにゴーグルをかけることもできるが、卒業生は上司や同僚に相談できず、「自分には合わない」と辞めたのだ。04年度の卒業生は就職希望者84人全員が内定を得たが、半年間で26人が、1年間で合計30人が離職した。
 「友だちや先生と話す勇気もなく、意欲の低い生徒のやる気や力強さを引き出していく必要性を感じました」と鈴木先生は話す。
 早期離職を減らすため、05年度に就職内定後の支援プログラムを導入した。就職内定後から就職までの半年間を社会人としての土台を築く時期と位置付け、生徒の意欲を維持しようとした。06年度からは、社会人としての自覚を引き出すために、日々の目標や達成度を記録する冊子『オーパ!』を活用する。目標設定シートに半年間で達成すべき三つの目標と行動計画を記入。それを基に週単位・日単位の目標を設定し、今日の気づき・感謝などを記入させる(図1)。
図1
オーパ(OOPA)は、Optimism(明るく楽しく)、Outcome(結果をイメージする)、Purpose(目的をはっきりさせる)、Action(実行あるのみ)の略。セルフコーチングの技法を取り入れ、目標と成果を明確にし、夢に対する思いを強くさせるのがねらいだ
 宇佐美先生は、「感想はなるべく肯定的で元気が出る言葉を書かせるようにしています。生徒には目標よりも感想の方が書きづらいかと考えていましたが、実際は逆でした。前向きなコメントを寄せる生徒も多く、教師自身が励まされることがよくあります」と話す。
 07年度には、内定企業と連携し「近況報告ワークシート」(図2)も取り入れた。「若者の早期離職の改善には、学校と企業が共に生徒を育てる視点が重要」と、鈴木先生は強調する。シートに「行動目標」「就職に際しての不安」などを書き、内定企業に送る。企業には入社までの半年間に、内定者が取り組むべき課題を提出してもらう。内定企業に自分を理解してもらい、生活を振り返って改善点に気づかせることがねらいだ。
 企業からの課題は、社会人研修用の通信教育や表計算ソフトの習得などさまざま。人事担当者にはシートに対する感想を寄せてもらう。企業から手書きのメッセージをもらうことで、生徒は自分への期待を感じ、やる気を高めていく。
 同校は卒業生への支援にも力を入れる。「就職者激励訪問」として、4月から就職者全員を訪れ、近況を把握する。何か悩みや問題を抱えていそうな卒業生に対しては、学校に来校させるか、または電話でカウンセリングを行う。
 「卒業生の中には仕事を辞めても相談先がわからず、再就職できずにいる者もいます。生徒と信頼関係を培ってきた学校が支援できることは、もっとあると思うのです」と郡先生は話す。
 改革の成果は徐々に現れており、早期離職は05年度の36%から06年度は26%、07年度は20%と着実に減っている。
図2
シートに近況を書き込み、内定企業に報告する。社会人としての意識を高めさせることがねらい。同様に、推薦・AO入試で合格した大学へも送る。返答率が、大学は7割弱、企業は5割強だ。今後は離職率と返答率の相関を分析し、企業に対応を促していきたいと考えている

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