清水
(鴎友) |
今、工藤先生が話された「待つ」姿勢の大切さは、本校でも重視していて、教師同士の合い言葉にしているんです。
確かに教え込む教育の方が、教師にとっても生徒にとっても楽でしょう。けれども楽ではあっても、生徒の知的好奇心をくすぐるような学びにはなりません。ですから「生徒が自分で答えを見つけだすまで、待つことを大事にしよう」と、いつも先生方には話しています。
例えば本校では、高1の化学の時間を使って「これは何か?」という授業を行っています。生徒を2人1組に分けて、白い粉の入った容器を渡し、何の薬品が入っているかを自分たちで調べさせるわけです。10本の容器に入っている薬品は、すべて異なります。
生徒は中3までの間で、基本的な実験の手法については学んでいます。そこで生徒たちは「この実験を行ったときに、こういう化学反応が起きたならば、この薬品である可能性が高い」といった仮説を立てながら実験に取り組み、少しずつ薬品の正体を絞り込んでいきます。ところがほとんどの班は、薬品の正体を突き止めることに失敗するのです。
これなどはまさに、生徒が失敗することを前提とした授業です。生徒が答えを見つけ出すまで待つのですが、生徒が出した答えが正しいとは限りません。けれども正解主義に陥っている生徒にとっては、その失敗が貴重な体験になるわけです。生徒に対して「間違ってもいいんだよ。また挑戦して、自分の力で正解を見つけ出すことが大切なんだ」というメッセージを発しながら、教師の側はじっと待つ。「なぜだろう」「何だろう」と深く考えさせ、失敗を認める教育を、本校では重視しています。 |
土岐
(西武) |
いきなり生徒に薬品を渡すと、テストでは優秀な成績を収める生徒ほど、どう扱えばよいのか戸惑いませんか。 |
清水
(鴎友) |
確かにそうです。生徒たちはテストで問題を出されたときに、正しい答えを書く知識はあるのですが、「その知識を使って、実際にやってみなさい」と言われると、できない子が多いですね。
一例として、中1の生徒に、「ガスバーナーが最も効率よく燃えているときの炎の色は何色か」と聞くと、みんな「青い炎」と答えます。ところが「ではマッチでガスバーナーに火をつけて、青い炎にしてみてください」と指示をすると、子どもたちはすごく苦労します(笑)。 |
工藤
(聖光) |
確かに今の子どもは、知識が断片的で、覚えた知識を活用したり、応用する力が弱いですよね。いわば、知識が探究活動につながっていかないのです。本校では、学校外の専門家を講師としてお迎えして、「聖光塾」を開講しています。昨年度は、「里山」「海辺」などの自然体験、バイオ実験、写真芸術などの16講座を開講しました。中学では、フィールドワークを重視しており、自然を体験したり、これまでに学んできた知識を自然を通して確認できるようにしています。子どもたちが知識過多になっている時代だからこそ、自分の五感を使って体験する学習が意味を持ちます。生きる力や教養を身に付ける機会を提供することは、中等教育の使命ではないでしょうか。 |
土岐
(西武) |
本校でも、昨年からロッテの本社商品開発部と連携して、中3生全員に新商品開発に取り組ませています。ねらいは先ほどお話ししたように、「子どもたちが自ら考えて、一つではない答えを見つけ出す体験をする」ことにあるのですが、もう一つのねらいとして、コミュニケーション能力の育成があります。KY(空気が読めない)という言葉がある通り、今の子どもたちは仲間同士で摩擦が起きることを怖がる傾向が強く、自分の本音や意見をなかなか述べようとしません。
ところが、個人ワークとグループワークを組み合わせながら、生徒たちはお互いの意見をぶつけ、考えや立場の違いを理解しなければ前に進めません。新商品開発を通じて、「みんなで協力しながら、ゴールにたどり着く」という体験をさせたいわけです。
同じクラスの生徒でも、最初は全く議論ははずみませんが、成果発表の日が間近に迫ってくると、見事なまでに生徒たちの様子が変わってくる。生徒たちの発表は大人の我々も驚くもので、昨年は生徒が出したアイデアが採用されて、商品化されました。店頭に商品が並んだことで大きな自信を得たはずです。 |