地方公立高校の挑戦
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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目的意識のない生徒に教師が語り、心に火をつける

 課題があったのは普通科だけではない。6年前、産業ビジネス科の入学者は入学定員40人に対して14人。午後の実習が始まっても3分の1ほどの生徒の姿がなく、20分も遅刻する生徒もいた。速見修史先生は危機感を募らせていた。
 「産業ビジネス科の生徒は目的意識が明確でなく、生活習慣は乱れていました。このままでは、2、3年後には入学者数が1桁になると感じました」
 そこで、教育課程の改革に着手。「フラワーアレンジメント」や「アニマルセラピー」といった内容の科目を廃止し、本格的な農業を教える科目にした。
 「中山間地では、環境の悪い段々畑でもどうすれば利益が上がる農業ができるのかが課題となっています。生徒には地元の産業を見つめ、自分の頭で考えられる生徒になってほしいと思い、農地を借りて地域ならではの農業を教える授業を取り入れました」(速見先生)
 更に、大学進学を意識させるように働きかけた。生徒の多くは「英語や数学をもう勉強したくない」といった考えで産業ビジネス科を選ぶ。そういった生徒に、授業への目的意識を持たせたかったからだ。
 速見先生は、農業実習の合間に生徒と畑に座り、「この学校で農業を教える教師に、何で地元出身の人間が1人もいない。大学を出て、教師になって帰って来い」と思いを伝えた。そして、保護者には三者面談の機会を利用し、奨学金や学生寮など、国公立大進学にかかる費用について説明した。
 入試は、農業科特別枠の推薦入試に的を絞った。英語が週2時間ほどしかないため、センター試験対策を十分にできないからだ。速見先生は、農学部のある国公立大推薦入試の面接や小論文の内容を詳細に分析し、個別対策を行った。
 その結果、産業ビジネス科では2、3年に1人だった国公立大合格者が、07、08年度と連続して3人出た。

〝営業担当〟教師4人が毎月中学校を訪問

 徐々に進学実績を上げていった同校だが、なかなか入学者の増加にはつながらなかった。変わりつつある高校の様子を中学校に伝えるために、4人の教師からなる「生徒募集委員会」を結成。入学者の多い4校を1校ずつ担当し、入学者数の数値目標を設定した。月1回は担当中学校を訪問し、中3生の担任と情報交換をする。生徒に配ってほしい行事案内などは、全校生徒分を印刷して持参する。また、中学校説明会は中学校と連携を取りながら毎年実施。産業ビジネス科の取り組みを中心にしたり、その中学校の卒業生に後輩へ話をさせたりと工夫している。
 藤本進校長は、「ここまで丁寧な中学校訪問は、どの先生にとっても初めての経験だと思います。中3生の担任になったつもりで生徒の進路を考えてほしいと伝えています」と話す。
 07年度には、地元の中3生を対象に「高校英語入門講座」を始めた。08年度は5日間、計10時間の講習を、同校を会場に開く。高校入学後、学習面でスムーズに移行できるよう中高接続を意識した取り組みだ。
 「本格的な受験勉強を経験しない生徒は、英語の学力レベルが低くなりがちです。高校の授業を知ることで、よい刺激になってほしいと考えています」(藤本校長)


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