私を育てたあの時代、あの出会い

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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先輩教師の言葉

教師の熱意と一体感が
生徒にとってよき鑑となります

栃木県立栃木高校 校長 稲葉 実
 当時から栃木高校の生徒は大人でした。この学校の教壇に立てる喜びと責任を受け止めて指導に臨まないと、教師が生徒に負けてしまう。そんな学校でした。一方、教師陣はベテランの先生方が管理職として他校に転任し、厳しい状況にありました。42歳の私が学年主任を務めるのは異例なことでしたが、残された中堅層が学校を引っ張り、若手の先生を教えなければならない時期だったのです。だから学年会では、若手の先生に「あなたはどう考えますか」と問いかけ、栃木高校の教師としての要諦(ようてい)を自分の経験を基に話しました。会議の時間はどうしても長くなりましたが、その積み重ねがあって、その学年が3年生に繰り上がったころには、若手の先生からも「こんな取り組みにしましょう」と自発的に声が上がるようになったのです。
 進路指導も教科指導も、大切なのは先を見通すことです。生徒が伸びる時期、伸ばすべき時期はいつで、どのような指導をすべきか。答えは目の前の生徒から教えてもらうしかありません。教師が熱く向き合えば、生徒は必ず応えてくれます。教師の意図的な働きかけに、生徒は反応を示し、教師はまたそれを受け止めて次の指導へとつなげる。つまり、指導に偶然はありえないのです。
 3年の秋のある日、ホームルーム中の大嶋学級の様子を廊下からうかがう機会がありました。生徒全員が大嶋先生の言動に集中し、私を見る者は1人もいません。この苦しい時期にこんな雰囲気になれるとは……。生徒の今とこれからを理解して、彼らを何とかしたいという熱意を積み重ねてきたからこそ、生徒は大嶋先生から目をそらさないのです。あの教室では、教師と生徒は一体となっていました。
 私は近年、教師の「育て合う力」が低下してきていると感じています。教師が共に支え、教え合う。ときには酒を酌み交わし、冗談を言い合う。そうして教師同士が共鳴し、一体となる様子こそ、生徒にとってよき鑑となるはずです。
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