10代のための「学び」考
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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ミクロの世界に魅了されて

 日立製作所に入社してからは、電子が波である性質を利用した新しい結像法である電子線ホログラフィーの実用化に取り組みました。電子線ホログラフィーとは、電子線を物体に当ててつくられた像をフィルム(ホログラム)に記録し、そのフィルムに光を当て三次元像をつくる技術のことです。私たちは、電子線ホログラフィーを実証できれば、性能の限界に近付いていた電子顕微鏡の可能性が広げられ、これまで見られなかったミクロの世界が観測できると考えたのです。
 入社3年目には、研究所の先輩のサポートもあり電子線ホログラフィーの可能性を実証する実験を成功させることができました。それは、大学時代に抱いていた「電子の波を見たい」という夢を実現させる実験でもありました。電子の波紋を見たときの感動は、今でも忘れられません。少年のときに心を動かされた水の波紋とそっくりな電子の波が、そこにはあったのです。
 しかし、この電子線ホログラフィーを利用した電子顕微鏡では、物体を撮影するのに10分という長い時間を要するため、実用には向きませんでした。時間を短縮し実用化させるには、明るくて、乱れのない電子線が必要でした。しかし、何度試しても電子線に乱れが生じてしまいます。私たちは大きな壁に突き当たったのです。
 電子線を発生させるには金属の針を用います。この針は髪の毛よりも細く、振動や磁場などの影響を非常に受けやすいものです。私たちは研究所内をくまなく調べ、妨げになる振動や磁場を除いていきましたが、それでもうまくいきません。最後には研究所の外まで疑い始め、もしかすると近くを通る電車が、原因ではないかとまで考えるようになりました。そこで、仲間の1人が研究所の12階に上がり、電車の往来を実験室に逐一電話で知らせました。最初は因果関係がつかめませんでしたが、粘り強く観察していくと、終電が去ったあと、揺れはなくなることがわかったのです。
 それから数か月経ったある日、自分の目を疑うほどの結果が出ました。電子線の証拠である、明るく乱れのない縞(しま)模様が今まで見たことがないくらいたくさん蛍光板上に現れたのです。電子線ホログラフィーが実用レベルに達した瞬間でした。このとき、私たちが電子線ホログラフィーの研究を始めてから10年以上の月日が流れていました。


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