私たちの研究を大きく前進させたのは、2003年度に21世紀COEプログラムに採択された「幹細胞医学と免疫学の基礎・臨床一体型拠点」の研究です。幹細胞というと再生医療を思い浮かべる人が多いと思います。さまざまな細胞や組織に分化する性質を持つES細胞(※5)やiPS(※6)細胞を難病治療に応用する研究は、世界の注目を集めています。私たちの研究チームも、07年に京都大の山中伸弥教授らと共同で、iPS細胞を脊髄損傷のマウスに注射し、運動機能を回復させることに成功しました。
再生医療への応用は、本事業においても重要な研究分野の一つですが、幹細胞の研究は再生医療のみを対象とするものではありません。幹細胞は、初期胚から個体の死に至る一生を通じて、基本的にすべての臓器に存在し、臓器の恒常性を維持するために欠かせない細胞です。幹細胞系の制御機能が破綻することにより、がんや変性疾患になるなど、さまざまな障害が生じます。幹細胞システムの解明は、多くの疾患の治療に役立つ可能性を秘めているのです。
本事業では、1086もの論文を世界に発信しました。その分野は多岐に渡ります。血液の分野については、血液の幹細胞がどこに存在しているのか、幹細胞の自己複製メカニズムがどのようになっているのかを解明することに成功しました。近年、成人の脳でも神経が新生することが明らかになってきていますが、それがどのように動いているのかも明らかにすることができました。更に、ES細胞から心筋をつくる方法もわかりました。
私自身がリーダーとなって進めた研究には、神経幹細胞の分化制御機能の解明があります。ここでは、脊髄損傷を受けた霊長類(コモンマーモセット)に人間の幹細胞を移植して機能回復させることに、世界で初めて成功しました。脊髄損傷に対する幹細胞治療の確立につながる成果であり、幹細胞を使った臨床医学全体を大きく前進させる研究として高く評価されています。 |