21世紀COEプログラムの事業期間が終了した08年度、私たちの研究グループは改めてグローバルCOEプログラムに採択されました。前研究の成果を踏まえて基礎から臨床までを段階的に発展させると共に、恒常的に質の高い研究を継続できる教育・研究拠点を確立するのがねらいです。
これらの研究の成果は、どのように社会に還元できるのでしょうか。今回の事業で設定した五つの領域の概要から見えてくると思います。
一つめは、幹細胞の基本的な構造の解明です。ゼブラフィッシュなど比較的体が小さく、成長も早い生物を使って各臓器の幹細胞の実態を解明します。二つめは、炎症・免疫制御のメカニズムを解明し、組織の修復や幹細胞移植による組織の再生を目指します。三つめは、がん幹細胞とEMTを標的とした新規がん治療の開発です。近年、幹細胞ががんと密接に関連していることが明らかになっています。さまざまな腫瘍についてのがん幹細胞をつきとめ、EMT(※7)の制御機構を解明することによって、がんに効く薬を開発していきます。四つめは、治療の難易度が高い疾患を再生医療により治療するための基礎研究です。動物モデルを使った前臨床研究を通して、将来的には心筋梗塞や巨大結腸症、脊髄損傷など難病治療に道筋をつけることがねらいです。そして五つめは、角膜や毛、骨など、今や実践段階に入りつつある再生医療の臨床研究です。
これまでの基礎医学には、患者の治療に直接役立つ研究がそれほど多くありませんでした。しかし、幹細胞のメカニズムの解明は、それ自体が難病治療に応用できるもので、知的好奇心と社会貢献の両面を満たすものです。これこそ生命科学、基礎医学の王道といえるのではないでしょうか。基礎医学を志す人、未知の分野を開拓したい人にとって、その可能性は大きく広がっているのです。 |